68・読者の家づくり奮戦記(下) 一生に一度の買い物 掲載日2005/10/22
円明さんが建築予定の円筒形の家(模型)
3度目の家を榛東村に建てた只木さん
 ◎夢にこだわり円筒形 前橋の円明さん
      「円筒形の家に住みたい」|。前橋市の会社員、円明良道さんは、一般の感覚では思い付かないようなマイホームを実現しようとしている。
  私はお便りをいただいて、びっくりした。最初は「本当に?」と半信半疑だったが、「ドリームハウス」の完成を目指して“奮戦”する円明さんのお便りを読むうちに、家に対するこだわりと情熱が伝わってきた。今後、家づくりが順調に進めば、来年5月、前橋市六供町に円筒形の家が誕生するという。
  「17年前、伊香保町に美術館がオープン。その庭に米国の有名ポップアーティストの作品『キャンベルズトマトスープ缶』の特大レプリカが展示された。これを見て、ひらめいた。以来、構想をしたため、『コンクリート打ちっ放しの円筒形の家』という結論に達した」
  だが、その実現が容易でないことは、家づくりを経験した人なら想像がつく。
  「丸い家は使い勝手が悪い、コストがかかる、などの理由で、どこに相談しても取り合ってもらえなかった。今年4月、上毛新聞社のホームページを見て、私の夢をかなえてくれそうな建築家と出会った。32歳。センスが良い。何より、相談に乗ってもらえそう。迷わず、メールを送った」
  私も、住宅の性能を等級付けする「住宅性能表示制度」を使ってくれる工務店を探すのに苦労した。建築家や工務店を選ぶ作業は、家づくりで最も重要なので、妥協はできない。
  「コンクリート造りは絶対に予算内に収まらない。建築家は提案した。『木造で周りに小さなタイルを張り付けて、家全体を丸く見せる』。正直言って、戸惑った。建築家はさらに『きっと存在感のある、立派な家になります。色は…』。間髪入れずに、私が答える。『マットなブラック』。建築家と意見が一致し、うれしかった」
  家づくりでは、建築コストの問題は非常に大きい。どんなに夢や希望を語っても、資金がなければ、本当に夢で終わってしまう。私と妻も資金事情から計画を縮小し、設備を断念したり、復活したりと、泣き笑いの連続だった。
  私と同じく、土地探しでも円明さんの奮戦は続く。
  「不動産会社から情報を集め、夜な夜な土地探し。6月から8月にかけて約50の土地を見てた。疲れた。疑心暗鬼になった。ある不動産会社は『そんなに見たら、いつになっても決まりませんよ』。確かにそうかもしれない。しかし、一生に一度の大きな買い物。そう簡単に決められるはずがない」
  「10月。土地、建物のデザインがほぼ決まった。一つ一つ、荒波の乗り越え、現在は最も大きなビッグウエーブ、融資の問題に直面している。金利、返済期間など毎日が勉強の日々。その日暮らしだった私は『もう少し貯金をしていれば』と、自戒の念にかられる。しかし、これがクリアできれば、いよいよ、夢の扉が開く」
  円明さんを訪ね、家の図面や模型を見せてもらった。私は「完成が楽しみですね。ぜひ見学させてください」と話すと、円明さんは「予算の関係でもしかすると平屋になっているかも」と冗談交じりで話していた。

◎部屋ごとに「神の手」 伊勢崎の高橋さん
  伊勢崎市茂呂町の高橋せんさんは「建築中の家も完成間近です。 棟梁(とうりょう)をはじめ、職人さんたちの丁寧な作業は驚くばかり」とお便りを寄せた。昨年12月にもお便りをいただき、現場で働く職人の仕事ぶりに感動していた。良い施工業者に出会い、満足する家づくりが進んでいる様子をあたらめて確認し、私もうれしくなった。
  「知り尽くした木を使って、職人技で各部屋ごとに神の手が入りました。玄関、リビング、和室、寝室の各天井は、棟梁の細やかな手作業にため息が出る、すごいのひと言に尽きます。壁はキッチン、洗面所を除き、すべて塗り壁。一部屋、一部屋で壁の色と素材を工夫して、住空間が健やかで落ち着きます。開放感と木の魅力が最高です」
  どんなにすごいのか、私は高橋さんの建築中の家を訪ねた。1階の天井が高く、見上げると、角材を格子形に組んだ格天井が施工されていた。高橋さんが自慢する通り、寺社で見るような見事な出来栄えに驚いた。
  「若いエネルギーが貴重だからこそ、職人技を若者が受け継いで、群馬県の伝統の継承と発展につなげてほしいと願っています」
  私も、家づくりで知り合った関係者の多くから「木材加工のプレカット化が進み、手で刻める大工が少なくなった」と聞き、心を痛めた一人。わが家は、工務店に手刻みの加工を頼んだ。消費者が仕事をどんどん依頼することで、技や伝統が継承されていくと思う。


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