42・ オートバイ卒業 リハビリと50歳の決断 掲載日2006/8/26
毎朝、散歩する人たちとあいさつ。それが通勤の励みになると倉林さんは言う

 「おーい左側。左側を走って」。前橋市上泉町あたりの桃ノ木川サイクリング道で、すれ違う高校生に倉林政幸さん(55)=玉村町五料=が大きな声を掛けた。「毎日くらい、高校生に、こう言っているので『うるさいおやじ』でしょうね、きっと」と苦笑いする。
  高校が集中する前橋市の桃ノ木川沿い、朝は自転車の通学ラッシュとなる。高校生の通学風景を見ながら、倉林さんの自転車通勤は5年目を迎えた。
  倉林さんは40代のころ、河川敷や野山を走るオフロードバイクに熱中した。エンジン音を響かせ、起伏のあるコースをバイクを自在に制御し、走り回ることに醍醐味(だいごみ)を感じた。しかし、けがは付き物だった。海外出張の直前、オートバイで転倒して鎖骨骨折、周囲に迷惑を掛けたこともあった。
  けがのリハビリを兼ねて自転車を始めた倉林さんは、徐々にその面白さに引き込まれていったという。「そうだ、自転車通勤をしてみよう」。50歳という節目、職場の理解も得られたことで、自転車通勤に踏み切った。
  玉村の自宅から前橋市小神明町の勤務先まで約20キロ。最初は、急坂で自転車を降りて、押し上げることもあった。通勤を続けるうちに、自分に体力が付いたのが分かった。まもなく坂道が苦もなく駆け上れるようになった。
  倉林さんは朝、約1時間掛けて通勤する。マイカーでも朝だと45分かかる。15分の時間的余裕がもたらす効用は実に大きいという。
  「ランニングハイと同じように、自転車でも1時間くらい走ると心地よさが出てくる。何よりもストレス解消に効く。朝晩が気分転換の時間」だという。
  今夏、桃ノ木川では、精霊(しょうろう)流しがあった。帰宅途中、自転車を止めて倉林さんは、しばし、川面の灯籠(とうろう)を見つめた。自転車に乗ると、季節の移ろいに敏感になる―。倉林さんだけでなく、多くの自転車乗りの実感だと思う。


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