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| 大三島と伯方島を結ぶ大三島橋。潮流がよく見えた |
瀬戸内海を自転車で渡ることができる―。それを知ってからしばらく、私は、居ても、立ってもいられなくなった。2年前の冬、夜勤を終えて夜行列車で東京駅へ。そして始発の新幹線で広島県・新尾道駅へ。
しまなみ海道と呼ばれるこのルートは、瀬戸内海の島々を7つの橋でつなぐ。最も高い来島(くるしま)大橋は海面から65メートルもある。対岸の愛媛県今治市まで約80キロ。みかん畑、のんびりとした島の人たち。島と橋が織りなす絶景が続く……はずだった。
新尾道駅前で自転車を組み立て、心躍らせ、乗り出した。しかし、天候を十分考慮しなかったのが、凶と出た。当日は西高東低の典型的な冬型の気圧配置。「この冬一番の寒さ」「四国の石鎚山で初雪」というおまけまでついた。
瀬戸内海を西から東へ吹き抜ける風は、想像以上に冷たかった。海岸に打ち付ける波は、強風に乗ってつぶてのように道に打ち付けた。しぶきは容赦なく服をぬらした。「なに、空っ風で鍛えているから、多少の風は大丈夫」とたかをくくっていたのは、最初だけだった。自転車に乗るのがつらいと思うのは、強風の時だ。寒さは手袋や衣服でしのげるが、風ばかりは防ぎようがない。体温は奪われ、前に進むのがやっとだ。
さらに、追い打ちをかけるような坂道の連続。本四連絡橋は高速道なので、非常に海面から高い位置を通っている。その高さまで自転車は、緩やかな傾斜の取り付け道をひたすら登って、橋を渡り切ると、再び降りるということになる。これを延々七つの橋で繰り返す。まるで七つの峠を越えるようだ。これを越えねば、四国に着かない。距離80キロなら通常、四、五時間で着く。しかし、この日は時速10キロ強といつもの半分のスピードだ。
景色は素晴らしかった。が、それをゆっくり堪能できるほど、心の余裕はなかった。寒さで鼻水が止まらなかった。80キロの全行程で、擦れ違う自転車はゼロ、追い越す自転車も無かった。来島大橋を渡り切り、今治の街並みが見えると、心底ほっとした。 |