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屋根に換気用の櫓を付けた大型養蚕家屋の田島健一さん宅=9月30日
県、世界遺産候補の枠組み見直し “物語”シンプルに 伊勢崎の養蚕家屋 「田島家」追加か
掲載日2010/10/16
本県の世界遺産候補「富岡製糸場と絹産業遺産群」の構成資産(7市町村10カ所)について、大沢正明知事が先月末の県議会で、4カ所を除いて推薦書の作成を進める方針を表明した。世界から理解を得られるストーリーの確立に向けた絞り込みの措置で、厳しい登録審査が予想される中、国内外の専門家の意見を受け入れた。一方、伊勢崎市教委は大型養蚕家屋の国史跡指定を目指して調査を進めており、本登録の枠組みをめぐる動きが活発になっている。
候補外となるのは国の法的保護が難しい旧甘楽社小幡組倉庫(甘楽町)、旧上野鉄道関連施設(下仁田町、富岡市)と、産業遺産ではない薄根の大クワ(沼田市)、重複する資産がある東谷(栃窪)風穴(中之条町)。
枠組みを見直した背景は二つ。一つは2008年に登録延期となった平泉の文化遺産(岩手県)の存在だ。当初は9カ所での登録を目指したが、浄土世界をテーマにしたストーリーを再検証し、最終的に6カ所に絞って推薦書を再提出した。
また、今年2月に本県が開いた国際専門家会議で、各資産を視察した海外の専門家は旧官営富岡製糸場の価値を絶賛した一方、「シンプルなストーリーが望ましい」と強調。これらを踏まえ、推薦書の詳細を検討する県世界遺産学術委員会は本登録の条件である「顕著な普遍的価値」を証明するにふさわしい資産に絞ることを決めた。
11月には本登録に大きな影響力を持つ国際記念物遺跡会議(イコモス)や国際産業遺産保存委員会(ティッキ)の関係者を招く予定で、ストーリー案や構成資産について具体的な助言を受ける。
県は今後、候補外とした4カ所やほかの絹産業遺産を網羅する「ぐんま絹遺産ネットワーク(仮称)」を立ち上げ、統一の標識やマップを作成する計画を掲げている。県世界遺産推進課の松浦利隆課長は「自治体が数ある絹遺産を十分保護することで、『その中の最高峰が世界遺産候補である』と本登録に向けてアピールできる」と強調する。
また、県の動きと並行して、伊勢崎市境島村の大型養蚕家屋、田島健一さん(81)宅が候補に加わる可能性が浮上してきた。明治期に活躍した養蚕研究家、田島弥平が1862(文久2)年ごろに建てた総櫓(やぐら)の母屋兼蚕室などで構成され、自身が提唱した養蚕技術「清涼育」やこの地域で盛んだった蚕種製造・輸出の歴史を示している。
伊勢崎市教委は2007年度から、田島家を含む一帯について国の重要伝統的建造物群保存地区選定を視野に調査していたが、単体指定に切り替えて9月下旬に詳細な調査を行った。
市教委は「世界遺産登録を踏まえての調査ではないが、結果として(登録運動に)乗れればいい」との立場。県が本登録を目指す時期を従来の2012年から「13年以降」と修正し時間的な余裕ができたため、来年度に申請できれば間に合う計算になる。田島家を高く評価する専門家の声や、今後ストーリーの組み立てにあたって重視される「本県の蚕糸業が世界の絹産業発展に貢献した歴史」に合致することも後押しとなりそうだ。
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