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構成資産の一つ「碓氷峠鉄道施設」を視察する学術委員会の委員ら=8月
「県世界遺産学術委」が発足 「絹産業遺産群」本登録へ始動 「ストーリー」確立を 切り口、枠組み検討へ
掲載日 2009/09/14
世界遺産候補「富岡製糸場と絹産業遺産群」の本登録に向け、構成資産や推薦書作成に関する専門的な検討を行う「県世界遺産学術委員会」(委員長・岡田保良国士舘大教授)が発足した。近代史や建築史などの研究者5人で組織し、10月にも本格的な検討に入る。8市町村10カ所の構成資産の枠組みがまだ流動的な中で、一連の価値を証明するための「ストーリーの確立」が議論の中心になりそうだ。
(江原昌子)
「近代産業遺産というメッセージを掲げるのか、あるいは絹文化にするのか戦略が必要」。7月、学術委員会の第1回会合で、委員の1人が訴えた。現在構成される養蚕、製糸、流通関係の資産を、どのような切り口で見せるかで展開は異なってくる、という指摘だった。
強力なメッセージ性を重要視する専門家の念頭には、“平泉ショック”がある。昨年7月に世界遺産登録延期が決まり、関係者が推薦書を再検討している「平泉の文化遺産」(岩手県)。原案の9資産を6に絞り込み、さらに「浄土思想を基調に完成された政治行政の拠点」という文化遺産の意義付けも変更した上でユネスコ側に提出するとみられる。
また、フランス人建築家ル・コルビュジエが設計した国立西洋美術館(東京・上野)を含む6カ国の建築物件22件も、今年6月に登録が見送られた。平泉よりは1ランク上の、追加情報を提出すれば翌年以降に再挑戦できる「情報照会」の決議で、登録条件を満たす価値の証明などの面で課題が残った。
本県の場合、どの切り口でも絹産業遺産には変わりないが、近代産業遺産に焦点を当てるなら、県内で特に発達し、現在も行われている座繰り製糸の要素が重要性を帯びてくる。一方、絹文化であれば世界に誇れる和装がアピールポイントになるだろう。実際、別の委員から「(織物工場を持つ)桐生が入っていないのは惜しい」と意見が出た。ストーリーの選択によって資産の枠組みが変わる可能性が大いにある。
確固たるストーリーがなぜ必要なのか。岡田委員長は2005年から、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)執行委員を務めており、年々厳しくなっていると言われる世界遺産登録のプロセスを見てきた。「世界遺産はすでに900近く登録され、簡単に説明できる資産が少なくなってきたので、いくつか組み合わせて主張する手法が取られている」と指摘する。
その上で、本県の世界遺産候補について「絹産業資産が群馬に集中している意味では、これまでのコンセプトの立て方は妥当だと思う。それを踏まえてストーリーと枠組みをどうするのか、点検作業には時間がかかる」と話す。
国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)選定を目指す桐生市や、構成資産の一つ「旧甘楽社小幡組倉庫」に周辺の景観を加えた枠組みを模索する甘楽町など、自治体レベルの動きもこれから。県世界遺産推進課の松浦利隆課長は「推薦書作成の段階で枠組みが決まるのが好ましいのだろうが、あまりガチガチに固定せず、余裕を持って臨みたい」と話している。
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