上毛新聞社「21世紀のシルクカントリー群馬」キャンペーン
松場さんが空き家に手を加え、昔ながらの街並みに戻った一角 石見銀山生活文化研究所長 松場登美さん
《シルクカントリーin桐生》 土地からの授かり物 古民家再生、昔の暮らし
掲載日・2009/02/23
◎石見銀山生活文化研究所長 松場登美さん
基調講演
世界遺産のまち・島根県大田市大森町から心の通った服飾雑貨を発信する松場登美さん。古民家再生にも力を入れ、昔ながらの衣食住を大切に受け継いでいる。講演では「土地からの授かり物」と題して写真で活動を紹介しながら、歴史と人間模様が織りなす豊かな生き方を提唱した。
大森町は人口四百数十人の小さな山村。松場さんは同研究所(一九九八年設立)の社屋を建設する際、周りの景観を生かすために六年かけて設計、さらに築二百五十年のかやぶき屋根の民家を移築して食堂にした。「ものを残さないと技術が残らない。古いものから新しい価値を生み出し活性化させることを続けてきた」と語る。
松場さんが移住したころ、まだ石見銀山や集落の文化的価値に注目が集まる前で、まちは「過疎のどん底」。ある日、夫の実家の近くにあった古い警察署が取り壊されていく風景をカメラに収めた。「効率性を優先した仕事の無残さを思い知った。大森が世界遺産になった今、あの建物が残っていたらどれだけ大きな財産になったか」と残念がる。
これまで七軒の古民家改修を手掛け、建物だけでなく暮らしの再生に着目。自身は築二百二十年の「他郷(たきょう)阿部家」に住み、かまどでごはんを炊き、ぞうきんで掃除する生活を続けている。さらに、電気やガスといった文明を一切排除した「五感のよみがえる家」を実験的に始め、究極のぜいたくを感じているという。
こうした暮らしは不便ととらえられがちだが、「田舎では非効率なことこそ意味がある」と強調。「桐生織物の多品種少量の生産も効率的ではないかもしれないが、地方のものづくりはオリジナル性を出すことで価格決定権が得られる」と訴える。
石見銀山は一度、世界遺産登録の延期という厳しい勧告を受けながら、自然との共生が評価され登録が実現した。「湿気の多い気候風土が山の再生を促し、過疎化が街並みを残した。そこに大きな示唆がある」と問題提起。
最後に「世界遺産を目指すことより、その先にある美しい暮らしを残す努力がやがて世界遺産登録へつながっていくのではないか」と締めくくった。
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