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絹遺産群と関連示す　富岡に蚕種出荷の記述　下仁田・荒船風穴の資料発見

掲載日・2007/09/17
　本県の世界遺産候補地「富岡製糸場と絹産業遺産群」の一つ、下仁田町南野牧の蚕種貯蔵施設「荒船風穴」に関する古い資料が大量に見つかった。同風穴操業時の営業案内や帳簿には、同じく候補地の旧官営富岡製糸場（富岡市）高山社発祥の地（藤岡市）などについての記述が見られ、地域的に離れている絹産業遺産群が、業務では互いに深く結び付いて稼働していたことをあらためて裏付けた。（斉藤洋一）

　荒船風穴は山間から吹き出す天然の冷気を利用した蚕種貯蔵施設で、一九〇五（明治三十八）年に建造された。石垣の囲み三基の上に純土蔵式の建物を建て、種紙の貯蔵能力は国内最大の百十万枚を誇った。現在は石垣だけが残っている。資料は、同風穴創業者の庭屋静太郎氏の子孫宅で、同風穴事務所「春秋館」として使われていた建物から見つかった。
　この資料の一つに、富岡市の旧富岡製糸場の建物群を使って操業していた原合名会社の原富岡製糸所が、同風穴にあてたはがきがあり、同製糸所が蚕種を注文していたことが判明した。さらに同風穴の「大正九年冷蔵種受付台帳」にも、同製糸所あてに蚕種を出荷したことが記載されており、荒船風穴と旧富岡製糸場の間に蚕種の需給関係があったことが二重に確認された。
　同風穴の大正時代の営業案内からは、春秋館を高山社蚕業学校の付属分教場として、生徒を募集する告知記事が見つかり、高山社とのつながりが文書で証明された。「静太郎の子、千寿は高山社の二期生として学んだ知識をもとに風穴の創設を父に進言した」「風穴の設計に高山社の町田菊次郎社長がかかわった」などのエピソードも伝えられている。
　別の資料では、下仁田町と高崎市を結ぶ軽便鉄道「旧上野鉄道関連施設」とのかかわりも確認された。同風穴の蚕種の鉄道輸送を記録した一九二一（大正十）年の「鉄発簿」には、旧上野鉄道を経て総武線や東北線、東海道線の各駅へ向けて蚕種を出荷し、養蚕農家に届けたことが記録されている。
　こうしたつながりが、同風穴の発展に大きな影響を与えたという意見もある。同町教委文化財保護係の大河原順次郎係長（48）は、荒船風穴が榛名風穴などより後に造られたにもかかわらず、国内最大の貯蔵能力を誇るまでになったことについて、「上野鉄道の輸送力はもちろん、高山社という大きな養蚕指導組織と結び付きがあったからこそ、貯蔵の依頼が集まり、日本一の規模に発展することができた」と分析している。
　絹産業は養蚕や製糸、織物、生糸輸送など幅広く、一つの分野だけでは成り立たない。互いに影響し合って発展を遂げてきた。今回の資料発見が、県内各地に点在する絹産業遺産群の結び付きをあらためて際立たせている。

◎点在の絹産業一つに
　本県の世界遺産構想「富岡製糸場と絹産業遺産群」は、県内十カ所に点在する建物などを絹産業の一連のシステムとしてまとめている、世界的にも珍しい形態だ。
　ヨーロッパを中心にこれまで世界遺産登録された産業遺産は、工場本体とその周囲に広がる労働者住宅など、一地域での建築物の組み合わせが多い。イギリスの「アイアンブリッジ峡谷」、イタリアの「クレスピ・ダッダ」などが代表例。
　これに対し、本県の絹産業遺産群は沼田、六合、安中、藤岡など広範囲の八市町村にわたる点在型。「養蚕」にまつわる桑の古木や養蚕農家、蚕種保存の風穴、「製糸」にかかわる製糸場やれんが倉庫、「生糸輸送」に貢献した鉄道などさまざまな分野に及び、時代も幅広い。こうした地域的な広がりと、遺産の多様性こそが本県の絹産業の奥深さを現している。
　けれども、遺産群を訪ねる県外や海外の見学者、産業遺産の専門家の中には、絹産業に初めてふれる人もいる。遺産群の歴史や文化、結び付きをうまく説明できなければ、本当の価値は伝わらない。
　世界遺産登録前の専門家の調査で、価値を低く評価されてしまった島根県の石見銀山のような事態を避けるためにも、荒船風穴にかかわる古文書のような歴史資料の発掘と調査を積み重ねることが求められている。