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石見銀山遺跡を構成する島根・大田市の鉱山町の路地風景(県世界遺産推進室提供) 石見銀山遺跡が世界遺産に登録されることが決まり、喜ぶ関係者ら
28日午後、島根県大田市の石見銀山資料館(山陰中央新報社提供)
28日午後、島根県大田市の石見銀山資料館(山陰中央新報社提供)
世界遺産登録 石見銀山から学ぶ 価値の証明に緻密な戦略を 価値の証明に緻密な戦略を
掲載日・2007/07/02
ニュージーランドで開催中の第三十一回世界遺産委員会で六月二十八日、島根県の「岩見銀山遺跡とその文化的景観」が世界遺産登録されることが決まり、国内で初めて産業遺産分野の世界遺産が誕生することになった。登録までの過程では、諮問機関から「登録延長」を勧告されるなど、一時は登録が危ぶまれる事態もあり、産業遺産の価値を証明する難しさも露呈した。同じ産業遺産分野で登録を目指す本県の「富岡製糸場と絹産業遺産群」に影響はないのか。遺産の価値を世界に伝えるためには、どうすればよいのだろうか。
石見銀山遺跡は今年五月、国連教育科学文化機関(ユネスコ)・世界遺産センターの諮問機関で、世界遺産候補地の現地調査を行う国際記念物遺跡会議(イコモス)から「登録延期」の勧告を受けた。「遺跡の普遍的価値の証明が不足している」のが主な理由。
世界遺産委員会はイコモスの報告をもとに登録の可否を審議したが、日本政府が「自然と共生しているユニークな鉱山跡」などと視点を変えて積極的に価値をアピールしたことが奏功し、世界遺産の"逆転登録≠果たした。
■説明の難しさ
「産業遺産の価値を説明する難しさをあらためて感じた」。本県の絹産業遺跡群の世界遺産登録運動を推進する「富岡製糸場世界遺産伝導師協会」の近藤功会長は、石見の経緯について感想を語る。
近藤会長は二〇〇五年十一月、メンバーのうち十数人と石見銀山遺跡を視察した。その際、現地の人々から「世界的、普遍的価値を証明することが大切」と、繰り返し教えられたという。
「あれほど価値の証明を重要視していた岩見が『価値証明不足』と言われたのは以外だった。中世の遺跡なので資料収集が難しかったのかもしれない」と、近藤会長は推察する
では、本県の絹産業遺産群の「普遍的価値の証明」は十分なのか。
■海外に発信
長年にわたり群馬の産業遺産を研究している清水慶一・国立科学博物館産業技術史資料情報センター主管は「群馬の絹産業遺産群には世界遺産の価値がある。これが登録されるかどうかは、価値を証明する資料を集め、理論立てて表現できるかにかかっている」と言う。
その世界的な価値として、@旧官営富岡製糸場は非西欧の国が民族資本で建てた最初期の近代的工場であることA日本の生糸輸出が欧米の服飾文化を変えたこと―などを挙げ「これらの事実を学問的に押さえ、分かりやすく表現することが必要になる」と語る。
こうした調査研究や、遺産群の価値を国内外に発信する取り組みはどこまで進められているか。
県などは〇六年一月にイギリス、同年十一月にフランスから世界遺産の専門家を招き、本県遺産群を見てもらい、シンポジウムなどで意見を聞いた。今年五月には県世界遺産推進室の松浦利隆室長がフランスで開かれた産業遺産の学会に出席し、同製糸場と絹産業遺産群の価値を発表。海外から貴重な情報を受けるなど、一定の収穫を得ている。
しかし、遺産群が「人類共通の財産」として国際的な理解を得ているかだうかは、現状ではわからない。
さらに発信し、理解してもらうために大きな課題となるのは、絹産業遺跡群としての価値、独自性をより明確にすることだ。
■構成遺産
松浦室長は「富岡製糸場そのものは大きく見栄えがよく、外国の専門家にも簡潔に価値を説明できる」という。しかし、「(目指しているのは)富岡製糸場だけで価値を認めてもらうことではない。『絹産業遺産群』の構成遺産を充実させ、富岡製糸場以外の小規模な施設にも世界遺産の価値があることを証明したい」とも話す。
石見銀山の登録までの経緯から、決定まで予想外の事態もありえることがわかった。遺跡の調査研究、保存とともに、一般に遺産のすばらしさを理解してもらうさまざまな仕掛け、より緻密な戦略が必要になる。 (斉藤洋一)
◎石見銀山遺跡
16世紀前半から約400年にわたって採掘された銀鉱山の跡。最盛期の17世紀ごろには世界の銀の3分の1を占めたとされる日本銀の多くを産出した。銀貨の鋳造に使われたほか、中国やアジア諸国にも輸出された。
遺跡は鉱山跡本体と当時のまち並みを残す鉱山町、銀の積み出しで発展した港と港町、鉱山と港を結んだ2本の街道などで構成しており、総面積は442f。
20001年に世界遺産の暫定リストに記載され、06年1月に政府がユネスコに推薦書を提出、6月28日に世界遺産登録が決まった。
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