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群馬の絹産業遺産群を手掛かりに意見を交わした鼎談
群馬の絹産業遺産群を手掛かりに意見を交わした鼎談

《記憶をつなぐ 時代をつむぐ 哲学塾鼎談から(上)》
   地域の豊かさめぐりフォーラム 絹産業遺産群にヒント
掲載日・2007/07/02
 上野村に住む哲学者の内山節さん、新潟大教授(河川工学)の大熊孝さん、東京大教授(環境倫理)の鬼頭秀一さんが「記憶をつなぐ・時代をつむぐ」をテーマに6月24日、高崎市八島町の高崎哲学堂で鼎談(ていだん)した。7月下旬に前橋市などで開かれる「ぐんま地域創造フォーラム」(県、同フォーラム実行委員会など主催)のプレイベント。同実行委メンバーら約40人も討論に加わり、本県の絹の文化や世界遺産登録推進運動を手掛かりに、豊かさや地域の力について意見を交わした。そのもようを3回に分けて紹介する。

大熊孝(おおくま・たかし)1942年生まれ。
大熊孝(おおくま・たかし)1942年生まれ。

  大熊孝(おおくま・たかし) 新潟大教授。1942年生まれ。東京大大学院工学系研究科博士課程修了。専門は河川工学、土木史。自然と人間の関係がどうあればいいのかを、川を通して研究している。NPO法人・新潟水辺の会会長。

内山節(うちやま・たかし)1950年生まれ。
内山節(うちやま・たかし)1950年生まれ。

  内山節(うちやま・たかし) 哲学者・立教大大学院教授。1950年生まれ。存在論、労働存在論、自然哲学、時間存在論を軸として、哲学を研究。NPO法人「森づくりフォーラム」代表理事。1年のうち半年ほどを上野村で暮らす。

 鬼頭秀一(きとう・しゅういち)1951年生まれ。
鬼頭秀一(きとう・しゅういち)1951年生まれ。

  鬼頭秀一(きとう・しゅういち) 東京大教授。1951年生まれ。東京大大学院理学系研究科博士課程単位取得退学。専門は環境倫理学、科学技術社会論。新しい枠組みの学際的な環境倫理額・環境哲学を構想している。


 上野村に住む哲学者の内山節さん、新潟大教授(河川工学)の大熊孝さん、東京大教授(環境倫理)の鬼頭秀一さんが「記憶をつなぐ・時代をつむぐ」をテーマに6月24日、高崎市八島町の高崎哲学堂で鼎談(ていだん)した。7月下旬に前橋市などで開かれる「ぐんま地域創造フォーラム」(県、同フォーラム実行委員会など主催)のプレイベント。同実行委メンバーら約40人も討論に加わり、本県の絹の文化や世界遺産登録推進運動を手掛かりに、豊かさや地域の力について意見を交わした。そのもようを3回に分けて紹介する。

 本県の養蚕、製糸、織物の三つの産業は、日本の近代化を支える大きな役割を果たした。三人はこの鼎談を前に、世界遺産の国内暫定リストに記載された「富岡製糸場と絹産業遺産群」を中心に、官営富岡製糸場(富岡市)、赤岩地区養蚕農家群(六合村)、薄根の大桑(沼田市)、境島村養蚕農家群(伊勢崎市)などを視察し、印象を語り合った。
 鬼頭さんは「島村は洪水と隣り合わせの地域なのに、大きな養蚕農家が林立している。外国の文化も流入していた」、大熊さんは「薄根の大桑のような桑が昔は島村にもあった。こうしたものが明治の養蚕を支えていた」などと述べ、遺産群を豊かさの象徴ととらえた。
 内山さんは、上野村の山の斜面に作られた桑畑の名残である石組みを紹介。また、昔作られた小さなコンクリート堰せきにも触れ、「かつての人たちは、いろいろな力を持っていた」などと語った。

◎価値
 本県の絹産業の歴史で特徴的なのが組合製糸。当時の最先端技術を駆使した富岡製糸場ができたにもかかわらず、県内で器械製糸が一気に広まることはなかった。半面、碓氷社など、在来の上州座繰り製糸による組合製糸が生まれ、生産量が富岡製糸場を上回る時期もあった。
 鬼頭さんは「座繰りがそのままあったわけではなく、農家の人が技術革新を試みた。それが群馬の製糸であり日本の近代化を支えることにもなった」と、座繰り技術のもつ意味の大きさを強調し、「技術移転は、在来技術や住民、自然と連携して初めて可能になる」と指摘。
 「群馬ではそれが行われた。群馬の絹遺産群は、技術を途上国などに定着させる際に必要なことや、技術移転が地域にどんな意味を与え、どんな人が支えたのかなどを見せてくれる」とし、そこに価値があるとした。
 内山さんは、絹の文化について、「豊かさ」を考えるヒントになると述べた。
 「今、豊かな社会と言えるのだろうか。発想があまりに貧しい。その中で、絹産業遺産群がつくられた明治の群馬は、いろいろなヒントを与えてくれる。地域の力や人間の力など、今、取り戻さなければならないものがたくさんあった」

◎機運
 本県で世界遺産登録推進運動がスタートして約三年。運動と連動して、各地で絹の文化や記憶を核に、地域を見直す動きも始まっている。これに対して運動の在り方や成果について意見が出された。
 鬼頭さんは、白神山地(青森県、秋田県)が世界遺産に登録された後、地域から離れてしまったなどと指摘したうえで、「群馬では絹の文化の象徴として遺産群を世界遺産に登録して、それを軸に自分たちの地域で何かを残したり、生きた遺産として活用しながら、継承するきっかけにしたいという雰囲気がある」と述べた。
 大熊さんは「私たちの先輩が、どうやってきたのか、歴史的な再評価をすべき。絹の文化ももう一度脚光を浴びれば、群馬の人は誇りを持てる。誇りを持つことが必要。そのために『世界遺産にならなくてもいいから、世界遺産にする運動』をずっと続ければいい。人間として生きていく誇りや喜びを、取り戻すことが肝心」などと発言。
 世界遺産に登録されることよりも、それをきっかけに地域の歴史や文化を見詰め直す機運が生まれることを成果ととらえるべきではないか、との見方を示した。(小林聡)

◎多様な活動の共通点を探る 28日から前橋、片品で地域創造フォーラム
 「ぐんま地域創造フォーラム」は二十八日に前橋市大手町の群馬会館、二十九、三十の両日は片品村で開催する。「里の哲学・繋(つな)ぐ思想」をテーマに、内山さん、大熊さん、鬼頭さんの三人の鼎談に、県内外で地域、文化活動に取り組む人たちも加わる“車座”のフォーラムとする。
 フォーラムの狙いは、県内のさまざまな団体が取り組んでいる地域活動の価値、意味を問い直すこと。長く続けていたり、団塊の世代の受け皿をとしても期待される地域活動を、絹の文化を手掛かりに、県外の人の視点も交えて見詰め直し、多様な活動の根底にある共通点を探ることで、深みや広がりを持たせるきっかけをつくる。
 県と県地域づくり協議会やぐんま文化会議のメンバーらで組織する実行委員会、内山さんら三人による「三人委員会哲学塾」などが主催。問い合わせ、申し込みは県地域創造課(電話027・226・2371)へ。

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