文字サイズを変更する
小
中
大
 

ORICON NEWS

山下智久、『ブルーモーメント』で“秘めた情熱”巧みに表現 『コード・ブルー』への期待も超える魅力

2024年4月26日(金) AM 07:00
 歌手・俳優の山下智久(39)が主演を務めるフジテレビ系水10ドラマ『ブルーモーメント』(毎週水曜 後10:00)の第1話が、24日に放送された。気象災害をテーマに、様々な危機から人々を救うヒーロードラマが描かれる内容。視聴率は個人4.8%、世帯8.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)となり、2022年4月に水10ドラマが復活して以降、歴代トップを記録。今クールの同局系ドラマでも視聴率トップの好発進となった。その要因と山下の演技について、ポップカルチャー研究者の柿谷浩一氏(早稲田大学招聘研究員)に解説してもらった。

【場面カット盛りだくさん】カッコよすぎる…!真剣な表情で前を見つめる山下智久

■髄所に感じられた『コード・ブルー』エッセンス

 1話を観終えた最初の感想は「そう、これが観たかった」だった。視聴者は、ただ「緊急出動」と「救助」のエンタメをみたい訳ではない。もちろんどんな作品も、その先に大切なことを描き、届けようとする。だが大切なのは、それが時代が必要としている物語かどうか。そこに今人々が求める精神的な拠り所があるか。

 そんなところへ手を伸ばすように、私達が置かれている不安な現在地…予想不可能な大地震や津波。そうした近年身近に迫って、一人ひとりがどこかで抱えて感じている恐怖に対し、手応えのある強くも深い「安堵」、さらに進んで「希望の光」を与えてくれる。それが可能なのが、山下の演技であり、彼のドラマに他ならない。

 山下の代表作といえば、やはりドクターヘリの救命劇を描いた『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』シリーズが挙げられる。常にクールで、正確で早い判断力に長け、他方でぶっきらぼうな言動に反して慈悲深さも持ち合わせた主人公ドクター・藍沢耕作の姿とイメージは、放送開始から15年以上経つ今なお、大衆の心を捉えて鮮明で力強い。

 今作『ブルーモーメント』は、主人公である気象学の天才・晴原を筆頭とした特別災害対策メンバー(SDM)が、気象災害に立ち向かっていくストーリー。設定も役柄(その性格人柄)も全く違うものの、しっかりと一面で『コード・ブルー』にあったエッセンス、先の代表作で山下がみせた存在感・演技力が継承されている感があった。

 ひとりの役者が担った「代表作品」と「役」のイメージと記憶、しかもそれが広く大衆に長年愛され続ける、いわば“現代のヒーロー”となれば、それとの比較が視聴者に横切るのも仕方ない。しかしその点、変に優越を感じさせる摩擦や衝突を感じさせず、新しいキャラクター性を打ち立てて新鮮。これは、そう簡単なことではない。それを堂々と、そして爽快にやってみせる彼の役者力、そして作品構成力は圧巻だった。

 どこかで『コード・ブルー』のような面白さと感動・感銘を期待してしまう。その要求に応えつつ「観たかった山Pのドラマ」でありながら、それでいて「まだ見ぬ新しい山Pのドラマ」とした期待感がたっぷりなスタートの1話だった。

■「冷たいほどに、熱が沸く」山下が見せる演技スキル

 山下の演技の凄みは、内側に「秘めた情熱」を感じさせる表現力にある。

 主人公に差し迫る現実が冷徹過酷であればあるほど、そしてその状況に表情が凍りつき、冷静沈着が求められれば求められるほど、演じる人間の闘志、使命、責任といった心の内の熱は、静かに燃え上がって、ひしひしと伝わる。その見せ方が、山下は群を抜いて優れている。外見と顔が厳粛でクールなほど、ホットでエキサイトした思いの「心の劇」が際立つのだ。

 そして、その感情を表立って出さない雰囲気は、目の前のピンチと悲劇の険しさを見事に盛り立て「危機の物語」の質を高める。また予断を許さない厳粛な存在が醸すムードは、誠実な責任感とストイックな仕事ぶりとなって、“自分への厳しさ”として表現され、類まれなキャラクターを生み出す。

 『コード・ブルー』の藍沢もそうだったように、山下が見せる演技の肝は、何といっても主人公の“ひたむきさ”と“全力感”である。どんなピンチでも、微々たる動揺を顔に出さない。ゆるぎない自信と責任感、それを支える覚悟が突出する。そうした絶対絶命に及んでこその冷静な緊迫、そこから溢れるどっしり構えた信頼感。それらが物語の独特な臨場感を作りながら、視聴者にワクワクやドキドキの域を飛び越えた、ある種の観ることで“守られ=救われる”ような独特の充足感さえ味わわせてくれる。

 主人公らが対峙する「自然」は脅威で、人智をこえた不合理・不条理をもたらす。そこへ毅然と、厳粛にあらがい、気象解析という責務を重く受け止め、自らの使命とする。そんな物語性を文字通り“言葉による説明”ではなく、演じる役の佇まい、存在感、オーラを通じて体現してみせ、自然のスケールや偉大さに負けず劣らない「これぞ、頼れる専門家」像を、山下が持っている特性「冷たいほどに、熱が沸く」の演技で、しかとみせて、期待に満ちたスタートだった。山下のドラマは、時代を越えて必要とされ、過去の作品に劣らぬかたちで迎えて、支持される。それを改めて証明する快作となりそうだ。
ポップカルチャー研究者/柿谷浩一(早稲田大学招聘研究員)

山下智久 (C)ORICON NewS inc.