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◆《経済一直線 体当たり取材》 出願段階から企業攻防 特許を取る◆ |
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「特許出願しました」。開発競争を生き抜く中小企業のオーナーがこの言葉を口にする時、表情には自信と安どが浮かぶ。特許は企業にとって苦労の証しであり、他社の攻撃から身を守る盾であり、利益を生み出す資産だ。特許侵害を理由にライバル企業の生産を中止に追い込むなど、時として企業戦略の武器にもなる特許。取得の実務にも、企業の浮沈をかけた、し烈な戦いが透けて見える。 |
学会誌や工業専門書がずらりと並ぶ広々した室内。中をのぞけないように配慮されたブースからは、パソコンのキーボードを繰る軽快な音が聞こえてくる。前橋・群馬産業技術センター内の県知的所有権センター。年間600人もの企業の特許担当者や発明を志す個人が、特許相談や情報の検索に訪れる。
「特許の取り方を知りたい」と申し出ると、情報検索のスタッフがすぐに対応してくれた。名刺に「特許情報活用支援アドバイザー 神林賢臓」とある。
神林氏から、企業のアイデアの権利化には、高度な発明を保護する特許権のほかに、実用新案権、意匠権、商標権があることや、手続きの流れ、取得に必要な費用の説明受けた後、特許情報の検索を体験してみることにした。権利化しようとするアイデアが、すでに出願されていないかを確認する重要な作業だ。 |
●類似出願759件 |
誰がどんな特許を出願したかは、特許庁が公開しており、インターネットでも検索できるが「確実に類似アイデアの存否を確認するには、検索ワードの選び方など技術が必要」(神林氏)だ。
試しに「ヒーター入りの靴」を調べることにした。「ヒーター」と「靴」をキーワードに検索すると実用新案を含め72件の表示があった。
神林氏のアドバイスで「加温装置付き履物」を調べると、1907年に登録された「カイロ入りスリッパ」から、一昨年に出願された「薬草で暖める靴」まで、759件ものアイデアがリストアップされた。
「これは無いだろう」と調べた「花粉をはじく服」も、イメージした機能を発揮する製品や技術は数十件も登場。すでに商品化されたものも少なくない。神林氏によれば、企業の特許担当者らによる実際の検索でも、3分の2は先行技術が見つかるという。
類似アイデアが無ければ出願だ。実務を聞きに弁理士の羽鳥亘氏(前橋市)のもとを訪ねた。 |
●95%を「拒絶」 |
「これへの対応が難しい」と、まず見せられたのが「拒絶理由通知書」。特許は出願から3年以内に審査請求することで初めて審査が行われるが、羽鳥氏によれば出願の95%には、この通知が送られる。文字通り特許を「拒絶」する通知だ。
「理由」のほとんどは、「当該分野の人が容易に発明できる」との判断。国内の発明水準を高レベルに維持するための政策的な判断とみられるが、弁理士は「容易ではない」ことを書面で、時には審査官に直接面談したり、現物を提示したりして反論する。
出願内容に対して、ライバル企業などから「どこそこの技術にそっくりですよ」などといった情報提供ができる制度もあり、百戦錬磨の弁理士でも、この壁を越えるのは50%程度という。
「拒絶」が解消されれば晴れて権利登録となるが、登録後にライバル企業が「(登録)無効審判」を申し立てることも少なくない。「申し立てがあるのは、特許技術が素晴らしいことの証しでもある」と羽鳥氏。特許をめぐる攻防は、最高裁まで持ち込まれることもあるという。 |
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(雑記帳)強者へ果敢な挑戦を
「逃げる」「潰(つぶ)す」「ねぎる」―。企業の特許部と弁理士の間で頻繁に交わされる、ライバル社の特許攻略の3原則という。
「逃げる」とは、特許に、ぎりぎり抵触しないよう製品開発したり権利出願すること。「潰す」は特許審査官に情報提供したり、無効審判を申し立て、権利化を阻止すること。「ねぎる」は、どうしても権利料を払わなければならない時、特許の相互利用を持ちかけるなどで、負担を少なくすることを表す。
特許の取得が、企業攻防の最前線であることを象徴する表現だ。羽鳥氏が実感を込めた「特許を取るというのは戦争そのもの」との言葉とともに印象深い。
特許庁の集計によると、県内の2003年の特許出願は2738件で前年比6%減。02年も前年を下回った。発明意欲の停滞か、戦への尻込みか。県内企業の活力低下が心配だ。羽鳥氏はこうも言う。「特許があるからこそ弱者がいつでも強者になれる」。大企業が突然、破たんする時代。強者を狙う果敢な中小企業の登場が期待される。
(報道部 高橋 徹) |
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