無限の表情 尽きせぬ魅力 尾瀬国立公園
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 《オピニオン1000 提言》尾瀬の管理費削減 県民で守る気概を 1億円目標に基金や協力金
2012/06/06掲載
尾瀬ケ原の牛首分岐から望む至仏山。植生保護のための早期の環境整備が求められている
尾瀬ケ原の牛首分岐から望む至仏山。植生保護のための早期の環境整備が求められている

 尾瀬国立公園の所有地の管理予算を4億円から3億円に減額する東京電力。今後は原発事故の賠償問題を抱えた東電にこれまで通りの支援は期待できない。当面は減額された1億円をどう補うか。入山者が減少傾向にあることも考慮し、寄付金や公費を財源とした基金の創設を柱とする、多面的な施策が必要だ。
 総延長65キロに及ぶ尾瀬の木道は、湿原の湿気と5メートルもの積雪の重さにさらされる。木道の寿命は平均10年と短く、補修には1メートル当たり12万円もの費用がかかる。特に東電管理の20キロには尾瀬ケ原への最短ルート「鳩待峠〜山の鼻」間など利用頻度の高いルートが集中。安全確保のための重点的な整備が欠かせない。
 恒常的な負担を背負い込むことに行政は躊躇(ちゅうちょ)しがち。尾瀬の入山者から入山料を徴収する案は以前からあるが、入山者減につながりかねない。
 木道の維持管理の費用を捻出するには、尾瀬ですでに導入している「トイレチップ」のように、木道利用者に小額(トイレの場合100円程度)の協力金を募る方法がある。県が設置した2カ所の公衆トイレ(山の鼻、竜宮)だけで1シーズン約1千万円が集まっている。トイレの維持管理経費の約1200万円には満たないが、環境保全にかかわろうとする人が少なくないことを示している。
 登山口や山小屋などに、木道の維持管理の仕組みや、その年にかかる費用を分かりやすく示した上で、協力を求めてはどうか。
 安定した管理財源を得るための基金も必要だ。屋久島の地元、屋久島町の「だいすき基金」には全国の屋久島ファンから寄付金が寄せられ、2008年度の導入から昨年度までに770万円が集まった。
 県はすでにふるさと納税制度を導入しており、使途を「尾瀬国立公園の保護・育成」に指定できるものの、昨年度の寄付は約20万円にとどまった。尾瀬のブランド力を勘案すれば、尾瀬の現状と、寄付制度が認知されていないことは明らか。県出身者にはがきやメールであらためて協力を求めたり、尾瀬保護キャンペーンを展開するなど、尾瀬の現状を踏まえた情報発信が求められる。
 いずれにしても、東電依存からの脱却が急務。どんな手段を選ぶにしても尾瀬の自然は県民が守るという気概が必要だ。
◎緊急性高い至仏対策
 財政問題でクローズアップされるのが、至仏山登山の問題だ。植生の荒廃が著しい至仏山登山道の在り方を検討している至仏山環境調査専門委員会は今年3月、山頂付近など「2ルートで登山コースの一部変更が不可欠」との中間報告をまとめた。今後さらに1ルートについても変更案が検討される。
 この3ルートはいずれも東電の管理区間。コース変更となれば、登山道設置とともに、従来の木道撤去の負担が見込まれる。環境調査委は「環境負荷の少ない新工法での工事」を求めており、設置単価は従来以上となる可能性がある。
 現時点で工事の実施時期は未定だが、関係者からは東電の財源不足によって工事が遅れることを懸念する声も上がる。
 尾瀬ガイド協会長の塩田政一さん(69)は、至仏山登山道には木道が歩きづらかったり、階段が外れそうな場所があるため「自然環境の保全と入山者の安全を考えると、補修やコース変更は早いほうがいい」と指摘する。 尾瀬管理の財源確保のための国、県を含む関係自治体、利用者、自然保護専門家による早急な議論の必要性が高まっている。
報道部 石倉雅人
尾瀬支局 吉田茂樹