無限の表情 尽きせぬ魅力 尾瀬国立公園
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 《転機の尾瀬 単独国立公園化1年(下)》 子供が肌で環境学ぶ場 「適正利用」の模索続く 教育
2008/08/30掲載
「尾瀬学校」でガイドから自然解説を受ける生徒ら=尾瀬ケ原
「尾瀬学校」でガイドから自然解説を受ける生徒ら=尾瀬ケ原

 「魚が泳いでるよ。近づいても逃げないね」。尾瀬・山ノ鼻地区を流れる川上川沿いの木道で二十九日、「尾瀬学校」でやってきた中学生が、人の気配に驚いた様子も見せずにゆっくりと泳ぐイワナを、興味深そうに観察した。
 尾瀬を環境教育に生かす取り組みが広がりつつある。尾瀬国立公園の誕生を契機に、県が小中学生を対象に始めた尾瀬学校。百九校が本年度の実施を計画、二十九日までに約六割が尾瀬を訪れた。尾瀬の自然だけでなく「ごみ持ち帰り運動」など保護の歴史も学んでいる。
 福島県は二〇〇六年に尾瀬での環境学習をスタートした。小中学校のモデル校を対象に交通費やガイド料などを助成。三年間で二十七校千九百人が参加した。さいたま市(埼玉県)や魚沼市(新潟県)も希望する小中学校への助成制度を設けた。
 参加各校が尾瀬で学ぼうとする内容はさまざま。二十九日に訪れた富岡南中学校の桜井勝教頭(53)は「尾瀬学校は手付かずの自然に触れることができる絶好の機会」と話す。上野村の上野中学校は七月、自然との共生に取り組んでいる尾瀬を知ることで、同じように自然に囲まれたふるさとを理解するきっかけにしようと実施した。黒沢右京校長(58)は「同じ山間地でも生えている植物が異なるなど、生徒にとって発見は多かったようだ」と振り返る。
 「尾瀬学校」の学習プログラム作成に携わった群馬大教育学部の西薗大実准教授(52)は「人工的な生産物が当たり前の環境にいる子供にとって、身の回りの自然環境の荒廃や問題点を考える契機になる」と尾瀬での体験学習の意義を語る。
 ただ、尾瀬学校には運用面の課題も指摘されている。人気のある尾瀬ケ原の標高は一、四〇〇メートル。急変しやすい気候や歩き慣れない木道での散策などを考えると、遠方の学校によっては日帰りの日程が難しい。関係者から宿泊助成を求める声が上がっている。
 また、ミズバショウやニッコウキスゲなど、尾瀬を代表する草花の開花時期は木道や休憩所が混雑する。とりわけ週末は、木道で立ち止まって植物を観察したり、体を休める場所の確保も難しい。学習の場としての利用には混雑する時期を避ける工夫が求められる。
 さらに、尾瀬の自然に与える影響を懸念する声もある。元尾瀬保護専門委員で四十年間、尾瀬に足を運んだ菊地慶四郎さん(71)は「子供たちに自然を見せてあげる機会を持つことには賛成だが、自然が壊れやすい尾瀬に集中して訪れるのは問題。まずは身のまわりの自然を対象にした学習が最優先ではないか」と説く。
 地球温暖化の影響の深刻化が危惧(きぐ)される中、尾瀬を訪れ、尾瀬を理解する人が一人でも増えることが尾瀬を守ることにつながる。ただ、入山者の増加は尾瀬の荒廃につながりかねない。「適正利用」とはどんな方法か。模索は続く。