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《転機の尾瀬 単独国立公園化1年(中)》 登山道で植生荒廃深刻化 迂回前提に深まる議論 至仏
2008/08/29掲載
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山頂近くの登山道で、植生荒廃や迂回路の候補地について議論する至仏山保全対策会議のメンバーら |
至仏山(標高二、二二八メートル)の山開きを前にした六月二十六日、尾瀬保護財団の至仏山保全対策会議の委員ら二十人が至仏山を視察した。委員は至仏山の植生を調べてきた研究者や環境省、地元関係者などから選ばれている。
「やはり登山道は尾根を通るルートに迂回(うかい)させるべき」「ルートを変更した場合と、今の登山道を使い続けた場合の、植生への影響の比較が必要だ」。雪解け水が川のように流れる登山道や水が流れ出してしまった池塘(ちとう)跡、植物が消えた蛇紋岩地帯を前に真剣な議論が交わされた。
至仏山の登山道は、鳩待峠から入り、オヤマ沢田代と小至仏山から向かうルートと、尾瀬ケ原の山ノ鼻から一気に山頂へ向かう東面登山道の二ルートがある。東面登山道は一九八九年から九六年まで閉鎖され、植生の復元や登山道整備などが行われてきたが、再び登山道による植生の荒廃が深刻化している。
尾瀬国立公園の誕生を機に、対策会議の登山道付け替え議論が本格化している。
十一月から翌年六月ごろまで雪が残る至仏山では、最後まで雪が残る雪食凹(おうち)地に高山植物が雪田群落を形成する。群落ができる場所は平たんで歩きやすいため、こうした場所をつなぐように登山道が整備されたことが問題を生んだ。特に深刻なのが(1)東面登山道の蛇紋岩地帯(2)小至仏山の南面(3)オヤマ沢田代―の三カ所。いずれも登山道があることで水の流れが変化してしまい、土壌流出や植生崩壊が進んでいる。
至仏山の登山道付け替え議論は二〇〇二年ごろに始まった。当初は「入山そのものを規制すべき」「新たな荒廃を招いてしまう」などととして、登山道の変更には慎重な意見が多かったが、保護と適正な利用を掲げる国立公園の趣旨から、迂回させる案と荒廃に目を向けた議論が深まってきた。
これまで新たな登山道として、雨水や雪解け水の影響が少ない尾根や、ハイマツの樹林帯へ迂回させる案を検討。オヤマ沢田代では、湿原を貫いている木道を周辺に移動させるアイデアも出ている。
だが現場は標高二千メートル前後の高山地帯で自然環境が過酷なため、地形や植生分布などの基礎データを集めて影響を分析するのには時間がかかる。たとえ迂回ルートが決まったとしても、多額の整備費をだれが負担するのかなど課題は多い。
それでも同対策会議は、単独国立公園化を踏まえ、本年度中に迂回候補地のほか既存ルートを使い続けた場合の影響などの議論を進める方針だ。委員長の加藤峰夫・横浜国立大大学院教授は「最初は賛否があったが、迂回の必要性を前提にメリット、デメリットを比較する議論ができるところまできている。情報を公開しながら、多くの人が納得できる形で進めたい」と話している。
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