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《転機の尾瀬 単独国立公園化1年(上)》 入山、HPアクセス増 「鳩待」集中解消が課題 反響
2008/08/27掲載
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ハイカーでにぎわう尾瀬国立公園=山ノ鼻地区 |
尾瀬国立公園が三十日、誕生から一年を迎える。知名度アップで、尾瀬の利用者は今年、増加傾向を見せ、地元や山小屋は収益増へ期待をかける。一方で自然保護の動きも活発化。シカの食害対策や、至仏山登山道の付け替え議論が本格化しているほか、「尾瀬学校」のように尾瀬の自然を環境教育に生かす新たな取り組みも始まった。
「尾瀬は五十五年ぶり。ミズバショウには間に合わなかったけれど、また来ることができてよかった」
秋の気配が漂い始めた八月二十日。さいたま市の女性(75)が尾瀬沼へと続く大江湿原の美しさに目を細めた。女性は昨年、尾瀬国立公園誕生のニュースを見て、尾瀬再訪を決めたという。息子夫婦と孫二人にサポートされながら新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込み、「豊かな自然が孫の時代もずっと続いてほしい」と願った。
同国立公園は、日光国立公園から尾瀬地域を分離・独立。新たに福島県の会津駒ケ岳と田代山、帝釈山地域を加えて誕生した。環境省によると昨年五―七月の入山者は約二十万人。今年は一割程度増えた。
特に福島県側の入山口、御池(桧枝岐村)では入山者が二割増加。新潟県側からのルート(魚沼市―御池間)の奥只見湖定期船の利用者は、昨年の千百九十七人から約四倍にもなった。
民間の旅行業者も尾瀬国立公園誕生を商機ととらえ、尾瀬ツアーの企画に力を入れる。阪急交通社(大阪市)は、草津温泉や伊香保温泉と尾瀬日帰りを組み合わせた従来のツアーを、尾瀬の山小屋に宿泊するツアーに変更した。尾瀬の単独化を機に顧客アンケートを実施したところ「山小屋に宿泊してみたい」という要望が多かったため。ツアー参加者は前年比18%増と好調だ。
片品村観光協会は、尾瀬の単独公園化が話題になった昨年三月からホームページへのアクセスが急増。今年二月までの一年間のアクセスは約百七十一万件で、前年から四割も伸びた。
しかし、登山経験の少ない入山者の増加は、尾瀬が抱える問題を深刻化させている。その一つが入山口の一極集中。本県側の大清水登山口の昨年利用者は全入山者のわずか六%。今シーズンに入っても入山数はほぼ横ばいで、同じ本県側の入山口・富士見下は数字に表れないほどだ。
一方で、人気の高い尾瀬ケ原に近く、入山者の六割が利用する鳩待峠の五―七月の入山者は、昨年を一割も上回った。
大清水登山口にある物見小屋の萩原清さん(74)は「利用者は毎年減るばかりで、すでに(山小屋は)経営が成り立たない。せっかく尾瀬国立公園になったのに、何も変わらない」と嘆く。
山小屋は避難小屋としての機能もあり、尾瀬には欠かせない存在だ。尾瀬山小屋組合の白石光孝組合長(65)は「山小屋を守るためには、入山者の分散化が緊急課題」と指摘。具体策として「自然への影響を極力少なくすることを前提に、交通アクセスの充実が必要。自然への負荷集中の改善にもなる」と訴える。
入山者と地元に尾瀬の保護と利用の問題が、あらためて突きつけられている。
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