尾瀬関連記事《NEWS レクチャー》 尾瀬の気候変動 泥炭分解なら異変
2008/05/26掲載
東電、電源開発半世紀にわたり観測 「温暖化」示す 貴重なデータ 東京電力は尾瀬沼(標高約一、六六〇メートル)で一九四九年から、電源開発は尾瀬ケ原(同約一、四〇〇メートル、赤田代地区)で六〇年から、気象観測を行っている。東電は八〇年代から自動観測になったが、それまでは、従業員が氷点下三〇度、積雪四メートルにもなる尾瀬で冬を越し、データを収集してきた。 長野県環境保全研究所で温暖化による山岳地域への影響を調べている浜田崇さんは、尾瀬の気象データの価値を高く評価する。「雪が減り、花の開花時期がずれるなど山岳地帯でも温暖化の影響が表れ始めている。しかし、厳しい環境のため、継続的な気象観測はほとんど行われていない。尾瀬のデータは対策を考える上でも貴重」と指摘する。 尾瀬の湿原は、一年の半分が雪で覆われ、年間平均気温が約四度という特別な気象条件の下ではぐくまれた。低温状態のまま、植物は微生物によって分解されずに積み重なり、およそ八千年かかって泥炭層がつくられ、尾瀬ケ原の湿原が生まれた。 湿原は、主に水中にあるものを低層湿原、周囲の水位より高いものを高層湿原、その間を中間湿原と呼ぶ。低層湿原には尾瀬を代表する植物のミズバショウやミツガシワ、中間湿原にはニッコウキスゲ、高層湿原にはモウセンゴケやヒメシャクナゲなどが生育する。 尾瀬ケ原の気象データによると、一九六一年から十年間の六―十月の最高気温の平均は二四・〇度。これに対し、昨年までの十年間の平均は二六・二度で二・二度も上昇している。同期間の最低気温の平均も一・六度上がっている。 このまま気温が上昇し続けると、湿原を構成する泥炭の分解が始まり、水を蓄えている池塘(ちとう)や湿原自体の乾燥化が進む可能性が出てくる。在来動植物の生活環境が脅かされ、乾燥に強い外来植物の侵入も懸念されている。 至仏山には、オゼソウなど貴重な氷河期残存植物が見られるが、雪解け時期が早まれば、植物は急激な温度変化や風雨にさらされる時間が長くなり、生育環境は激変してしまう。 福島大の樫村利道名誉教授は「まだ観測されている訳ではないが、温度上昇が泥炭の分解を引き起こしているかもしれない。温度が上昇し、人の目で分かるほど破壊が表面化した時には手遅れになってしまう」と警鐘を鳴らす。 (尾瀬支局 霜村浩) |