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 《地球とともに 第1部 異変(1)》 尾瀬で急増シカの姿 雪減り生息域拡大 植生のかく乱懸念 効率的な捕獲検討
2008/04/06掲載
本県側の越冬地から尾瀬沼方面に向かうシカ
(環境省提供)
 地球温暖化の影響と思われる事象が、われわれの足元で顕在化しつつある。温室効果ガス削減を義務付けた京都議定書の五年間の約束期間が一日に始まり、七月の北海道洞爺湖サミットでは地球環境を主要テーマに先進国首脳が討論する。県内で起きている変化や予兆、環境問題をとらえ、地球を守るために何ができるのかを考える。

 尾瀬のシカが近年、急速な勢いで増え、湿原の生態系に影響を与え始めている。シカがいなかった尾瀬に、なぜたくさんのシカが生息するようになったのか。原因の一つとして指摘されているのが、地球温暖化による雪の減少だ。シカはミツガシワ、ミズバショウ、ニッコウキスゲ、ヤナギランといった尾瀬を代表する植物を食べる。このままシカが増え続ければ、貴重な高層湿原の景観や植物構成が変わってしまうと関係者が危機感を募らせている。
 三月二十一日、栃木県日光市で開かれた尾瀬のシカ対策協議会で、環境省が示した御池田代の航空写真に驚きの声が挙がった。湿原のあちこちにシカが植生を踏み荒らした跡が点在し、無残な姿をさらしていた。
 協議会の議論は一時、尾瀬周辺ではなく内部でシカを捕獲する時期に来ているか否かで白熱した。環境省は従来通り尾瀬周辺地域で捕獲を進め、尾瀬に入るシカを減らす方針を示して議論を引き取ったが、「方針転換もやむを得ない」との意見が出席者から相次いだ。

 かつて尾瀬にシカはいなかった。一九五四(昭和二十九)年から尾瀬に入っているという片品山岳ガイド協会会長の松浦和男さん(67)は「尾瀬でクマは見るが、シカは見たことがなかった。十年ほど前、遭難者の捜索で林と湿原の境を歩いたが、シカの踏み跡がすごかった。あまり木道から見えないだけで、湿原がひどく荒らされていた」と話す。
 尾瀬のシカは、もともと日光に生息していた個体群が生息域を広げて進入したと見られている。雪が多ければ十分な栄養を取れず、幼いシカは体力を奪われて生き残ることができない。だが、雪が減ったことでこれまで越冬地にならなかったような場所で越冬できるようになり、移動に伴うリスクも減った。狩猟者も減り、シカの繁殖には好条件がそろった。
 環境省によると、九八年に最大二百五十七頭と推定された尾瀬のシカは、二〇〇七年には約二倍の五百二十四頭に。シカ研究の第一人者、小金沢正昭・宇都宮大教授は、近年増加傾向に拍車が掛かっていることを指摘、三年後には千頭に到達すると予測する。
 環境省も事態を深刻に受け止めている。昨年から移動経路を調査するとともに大型の囲いわなや網による捕獲実験を行い、効率的な捕獲方法を検討している。
 同省日光自然環境事務所の福井智之所長は「このまま増えすぎれば、植生のかく乱が拡大する可能性がある。何とかここでストップさせなければ、湿原はもたない」と話す。
 温暖化による生息域の変化はシカだけではない。片品村戸倉や奥日光では近年、イノシシの目撃例が目立つようになり、やがて尾瀬に進入するのではないかと危き ぐ惧する声もある。
 「雪が多いから行かないとは思うが…」と前置きした上で、小金沢教授は語る。「イノシシは寒さに強く、しかも増加率はシカの四倍。もし尾瀬に入れば今度は尾瀬がイノシシの楽園になってしまう。その可能性は非常に高い」

◎積雪量が生存率左右 栄養不足の2―3月
 東京電力は一九五〇(昭和二十五)年から、尾瀬沼観測所で気温、降水量、降雪量の観測を行っている。記録からは降雪量が減少したとの明確なデータは得られなかったが、豪雪だった一九八四年は各地でシカの大量死が起きている。栄養不足となる二月、三月の積雪量が生存率を左右する。