無限の表情 尽きせぬ魅力 尾瀬国立公園
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 尾瀬で携帯  基地局の議論再燃
2007/10/09掲載
 尾瀬で携帯電話を使えるようにするかどうか―。5年前に「ノー」の答えが出た携帯論議が再燃している。「遭難救助に必要」と基地局新設を求める地元住民の陳情を片品、福島・桧枝岐両村議会が9月中旬に相次いで採択。これに対して、自然保護団体は「着信音や通話の声が尾瀬の自然にふさわしくない」などと、反対の立場で行政への働き掛けを強めている。8月に誕生した尾瀬国立公園の運営姿勢を問うテーマとの指摘もあり、結論を導くまでには尾瀬保護財団を中心に活発な議論が展開されそうだ。

片品村の鳩待峠で携帯電話を掛けるハイカー。尾瀬ケ原に向かうとすぐに通話圏外になる
 「急病や事故時の迅速な連絡手段として不可欠だ」「着信音や通話の声は尾瀬にふさわしくないという声もある」―。片品村議会の九月定例会総務文教常任委員会。携帯基地局の陳情が議題になると、賛否両論の意見が次々と出て、関心の高さをうかがわせた。
 賛成派が「人命救助に有効。マナーの徹底が前提だが、基地局の新設を進めてほしい」と主張すれば、反対派は「公共の場所ではマナートラブルが生じている。自然保護団体の意見も聞くべきだ」と返した。
 尾瀬の山小屋は通信衛星を利用した衛星電話が普及しており、「衛星電話を山小屋近くに設置する方法もある」と代替手段の提案もあった。

◎2村議会連携
 最終的には全会一致で陳情を採択した。
 片品村の動きに桧枝岐村が歩調を合わせるように、同様の地元陳情を村議会が採択した。そして九月下旬、両村議会は桧枝岐村で会合を開き、連携して基地局新設に努力することを申し合わせた。尾瀬核心部の大部分を占める両村がスクラムを組んだ形だ。
 陳情再開の背景には、五年前と比べて携帯電話が大きく普及した上、人工衛星で位置確認できる機種が出るなど、携帯電話の環境変化がある。
 地元住民が理由にするのは「遭難救助」のツールとしての役割だ。尾瀬山小屋組合によると、ハイカーがけがをすると、同行者などが歩いて山小屋などに連絡しており、救助にかなりの時間を要している。
 昨年度、尾瀬の傷病事故は八十件発生し、このうち三件三人が死亡した。片品村遭難対策救助隊の萩原博美副隊長(59)は「救助隊が使う無線は、山の陰や沢の下では使えないことが多い」と携帯電話の必要性を強調する。

◎県はまだ静観
 地元などの陳情を受けて、基地局設置を許可するのは環境省。設置するのは電話会社だ。しかし、五年前に「設置不要」の流れをつくったのは、県の反対表明だった。
 今回、県は「まだ陳情が出ていないので、判断する段階ではない」と状況を見守る構え。環境省関東地方環境事務所は「許可を求められれば、公園法に基づいて適正に審査したい」としている。
 尾瀬は二十一世紀の国立公園のモデルケースであり、いかに保護と利用のバランスを取るか注目されている。それだけに、携帯基地局の問題は関係者に広く意見を求めながら、慎重に議論することが不可欠だ。
(尾瀬支局 霜村浩)

◎賛成派「緊急時連絡に必要」 反対派「固有の静寂を壊す」
 携帯基地局の新設を求める動きに対して、自然保護団体の代表者らでつくる尾瀬自然保護委員会(内海広重代表)は八月下旬、群馬県と尾瀬保護財団に「尾瀬固有の静寂さを壊す人工的な機器の持ち込みは容認できない」などとして反対の立場で質問状を提出した。
 内海代表は「五年前に県が出した基地局反対の考え方に賛成だ。遭難した後のことより、そうならないよう入山前にハイカーを指導する体制づくりが先」と指摘している。
 自然保護四団体でつくる尾瀬を守る会(中根一郎会長)も九月、片品村と群馬、福島両県に基地局を設置させない措置を求める要望書を提出した。
 高橋喬事務局長は「奥多摩の山岳地域では、携帯による安易な救助要請が急増し、消防や警察の通常業務を妨げている」と他地域の事例を示し、「尾瀬もそうなる可能性がある」と基地局反対の理由を説明しているしていく方針。