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「里見の郷再発見伝」発行人  中嶋 講二 (高崎市金井渕町)



【略歴】「里見の郷」推進実行委員会事務局長として里見氏の顕彰に取り組む。2011年1月まで20年間経営した書店でギャラリーを併設し地域の文化活動にも尽力した。


享徳の乱



◎南総里見八犬伝の題材



 そもそも地域づくりとは何か、いつも自問しています。多様な切り口があっていいと思います。その一つとして、地域の歴史をきちんと見直すことが重要ではないかと思っています。「利他的な生き方」という、上野村在住の哲学者、内山節先生の言葉があります。地域のために、人のために生きることが結局は、回りまわって地元地域のためであり、自分のためでもあるという考え方です。人間の根本的な心情がこのようなことでなければいけないと思っています。

 昨年、群馬県立歴史博物館で大変興味をそそる意義深い企画展が開催されました。それは「関東戦国の大乱―享きょうとく徳の乱・東国の30年戦争・戦国は関東からはじまった」です。なんと享徳の乱を下敷きにした作品が、里見氏をモデルとした滝沢馬琴の伝奇小説「南総里見八犬伝」なのです。今回は特にこの辺に少し触れてみたいと思います。

 一般的戦国は上杉、武田、北条の三つどもえの戦乱と関連の上州の長野氏や房総の里見氏ではないでしょうか。≪戦国後期≫

 では、戦国はいつから始まったかというと、従来は京を舞台にした「応仁・文明の乱」(1467~1477年)とされています。また、ともすると北条氏の関東制圧史と描かれることもあります。しかし、この企画展では戦国は、享徳3(1454)年から戦乱に突入し、30年にわたって関東一円を二分した「享徳の乱」から始まったと力説していました。

 「都と鄙ひ」(京と東国)の両久く方ぼう(室町幕府と鎌倉府)の対立を背景に、鎌倉(後の古こ河が)公くぼう方足あしかが利成しげうじ氏が関かん東とう管かんれい領(鎌倉公くぼう方を補佐する立場であったが、後で自立)上杉憲のり忠ただを殺害したために勃発したとされています。≪戦国前期≫

 では、この関東の内乱を下敷きにした作品八犬伝について少し。物語は室町後期の安房の国の里見家の姫、伏姫と八房の因縁によって結ばれた八犬士を主人公にしています。儒教で言う八つの徳「仁じん・義ぎ・礼れい・智ち・忠ちゅう・信しん・孝こう・悌てい」や勧善懲悪を基本理念とした構成雄大、波瀾万丈の長編伝奇小説です。馬琴が江戸後期に28年かけた全98巻106冊の超大作で、関東一円、甲信越、そして上州も大事な場面(妙義神社、渋川の白井城、下仁田の荒船山ほか)に登場します(現代語訳は河出文庫版(上)(下)ほか刊行)。

 後に歌舞伎や映画、人形劇、漫画など多様なジャンルのシナリオに影響を与えたといわれています。

 このように、八犬伝は中国の水滸伝の影響もあり、遠いイメージでしたが、享徳の乱を題材にしたことで、きわめて近い存在であり、戦国を知る上で、大変重要な「物語」です。







(上毛新聞 2012年4月16日掲載)