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中之条ビエンナーレ総合ディレクター  山重 徹夫(中之条町上沢渡)



【略歴】広島県出身。多摩美大卒。制作ディレクターなどを経てデザイン事務所Playground Studio主宰。アートイベントやクリエイティブセンターTSUMUJI運営。



「夜光市」の試み



◎新しい「結びつき」を



 今年3月、群馬県北西部に位置する六合村は中之条町と合併し110年の歴史に幕を閉じた。六合村は山岳地帯に1600人余りが住む小さな村で、コンビニやスーパーなどはほとんど見あたらない。村に住む人々は生活に必要なものの大半は自分たちで作ってきたのだろう。私が集会所を訪ねたときも、おばあちゃんたちが古布を裂いてカラフルな草履を編み、山で集めたツタでおしゃれなカバンを作っていた。ここで暮らす人々は、生活のいろいろな場面で土地からの恵みでものを作り出すアーティストなのだと感じた。

 ものを作るということで、ものを大切にする気持ちが生まれてくる。こうして物質的ではなく精神的な豊かさを感じられる文化が今も息づいているということに感動した。古くなったものをすぐに買い替えるような大量消費の現代では、こういった精神性は欠落してしまう。この素晴らしい文化風習が失われないために、自分に何かできることがないか探しているところだった。数年前、地元の人に誘われて観(み)た祭りが頭をよぎった。神社からさまざまなお面をつけた行列が、里山に下りて舞い歩く美しい風景。農作業の忙しい最中だが、収穫の喜びを皆で分かち合い感謝している姿に、人と人の強い結びつきを感じた。古くから祭りは人と人、土地と土地を結びつけているのだ。

 新しく祭を作ろう。まずは祭りに使うお面を土地にあるものだけで作ろうと考え、旧六合村に住むアーティストのスタン・アンダソン氏にワークショップをお願いした。森に入り、木の皮を剥ぐところから始め、煮詰めたものを顔の形に漉すいて和紙お面を作る。買えば数十円で済む一枚の和紙を数日かけて作るのだ。お金をかけないことが、これほど楽しくそして大変だとは気付かなかった。町のいたる所で準備は着々と進み、会場となる施設の壁面はみんなが作ったお面で埋め尽くされた。

 新しい祭りは日常との境界を引くために日没後を考え「夜光市」と名付けた。土地から生まれたお面をかぶった人々が町中を歩き、太鼓を打ち鳴らし、通りには手作りの竹行あんどん灯が並べられた。旧六合村から来てくれた人たちはスゲムシロ作りやメンパ作りを披露し、中之条町ではヨサコイソーランや伝統の鳥追い太鼓を打ち鳴らし、新しい「結びつき」を歓迎してくれた。呼びかけで集まったアーティストたちのパフォーマンスや展示が町中で行われ、夜光市一色になった町は熱気と歓喜に包まれた。

 「古い祭りと結びつき、新しい祭りが生まれる」。美しい精神性を受け継ぐために、アートはその役割を担ってくれた。今回は多くのアーティストの力を借りて、大切なものを少し見える形にできたと思う。








(上毛新聞 2010年12月21日掲載)