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◎誰にもチャンスはある 「オレはかつて段ボールの上で寝ていたが、ツキに恵まれマットレスを買った。同じことが誰にでも起こりうる。人生に遅すぎるということはないんだ」 これは9月から10月に初来日を果たし、4週間にわたって日本全国12カ所で公演を行ったアフリカ、コンゴ民主共和国の楽団、スタッフ・ベンダ・ビリリが歌う「トンカラ(段ボール)」の歌詞の大意である。 テレビニュースでも何度か取り上げられたのでご存じの方も多いだろうが、スタッフ・ベンダ・ビリリは8人のメンバーの多くが首都キンシャサの路上や動物園に暮らすホームレスで、身体に障害を持ち、4人が車椅子、1人が松葉づえの生活をしている。コンゴでは1960年代のコンゴ動乱と続く独裁政権、90年代の内戦という長い混乱が続いたため、彼らは幼少時にポリオのワクチン注射が受けられず、下半身障害の身となってしまった。そんな彼らの奏でる音楽はコンゴのダンス音楽であるルンバ、そしてアメリカのソウルやリズム&ブルースの影響を受けた音楽である。 キンシャサの外国人向けレストランの店先でチップ目当てで演奏していたところをたまたまフランス人の映像作家によって見いだされた彼らは4年をかけてアルバムを制作し、昨年、ヨーロッパやアメリカ、日本でもCDデビューを果たした。そして念願のヨーロッパでのコンサートツアーも大成功を収めた。そんな「事実は小説より奇なり」な彼らの5年間を追いかけたドキュメンタリー映画「ベンダ・ビリリもう一つのキンシャサの奇跡」は9月より日本でも全国公開(11月にシネマテークたかさきで上映)されている。 映画やニュースの効果があってか、10月の体育の日の午後、東京日比谷の野外音楽堂は約2500人の老若男女が集まった。普段アフリカ音楽の公演では見かけない年配者やベンダ・ビリリの面々と同じ障害を持った方も目立つ。僕もそこで初めて彼らの生演奏を聴いた。ステージ上では障害を持った5人がそれぞれにギターを弾き、歌い、車椅子の上で飛び跳ね、松葉づえをついたまま踊り、全身で音楽を奏でている。ステージを見なければ、ハンディキャップを持つ演奏家とは思えないほど力強く、躍動感ある演奏だ。もはや客席は誰も座っていない。 アフリカにはもっと演奏のうまいバンドも、もっと美しい歌を歌うバンドもいる。しかし、彼らほど元気をくれるバンドはいないだろう。車椅子に乗ったキンシャサの路上生活者のオジサンたちが言葉の通じない日本人2500人を総立ちにした光景は僕の目にしっかりと焼き付いた。それは「誰の人生にもチャンスは起こりうる」という彼らの歌の歌詞そのままの奇跡のような風景だったのだ。 (上毛新聞 2010年12月20日掲載) |