視点 オピニオン21 |
■raijinトップ ■上毛新聞ニュース |
. | |
|
|
◎外向きに自分を変えて 今年のノーベル化学賞に根岸章氏、鈴木英一氏の両日本人が受賞するという朗報は景気低迷や厄介な外交問題を抱える日本を大いに勇気づけてくれた。 中間媒体を用いて複数の有機化合物を結合させるといったカップリング技術が受賞理由であり、現在の産業界で多用されている人類に有用な技術である。心より祝福申し上げるとともに勇気をいただき感謝を申し上げる次第である。 2人の研究者に共通しているのは、研究に対する真しん摯しな姿勢と素晴らしい恩師ブラウン氏と巡り合えたことではなかろうか。鈴木氏が「教科書に載るような研究をしなさい」という恩師の言葉に感慨を覚え、根岸氏が「感動を与え続けてくれた恩師との出会いが一生を決める」と述懐している。また、見逃しがちな点として恩師が厳しかったことを強調している。優しいばかりではなく現在では忘れ去られた「厳しさ」が必要であると感想を述べている。 しかし、喜んでばかりはいられない。各紙新聞報道にもあるように今回の受賞は30年以上も前の研究成果に対するものである。今後しばらくは日本人受賞が続くだろうが、あと30年経過したときに今と同じような受賞ができているだろうか。 海外で学んだ両氏が嘆いておられるのが最近の日本人の内向き志向である。井の中の蛙(かわず)は大海の厳しさを知らなければならない。国外に出て優れた知識を貪欲に吸収している中韓台の若者たちの知識や技術そして、やる気は既に日本人を凌駕(りょうが)している。昨今の日本人若者のグローバル的な競争意識は薄らぐ一方である。 勉強をしない。面倒なことには口を出さない。外には出ず、なるべく家のなか、そして自分の部屋で孤独を楽しむ。ゲーム機で遊ぶ、または携帯電話でメールを打っているだけの毎日だ。勉強して成績が上がるなどの目立つことをすると、いじめの対象になってしまうなど社会全体の傾向が内向きとなっている。若者も社会全体も負そして内向きのスパイラルに陥っている。 この内向き傾向の大きな原因は私の分析では競争社会からの脱却、そして間違った平等主義といった教育のかじ取りの責任が大きいと考える。だが国の政策転換を待っていては遅い。 今からでも外向き志向に自分を変えてみてはどうか。図書館や美術館に行く、地域のコミュニティーに顔を出す、学校行事に積極的に参加する、出張する、国内外の旅行に出かけるなど自分を自分以外の環境に晒さらしてみよう。周りの知識についていけない情けない自分を発見できると思う。そこがスタートなのである。 自分で立って動くと風が起こる。じっとしていては何も起こらない。颯爽(さっそう)という字は立って風を起こすと爽になると書く。 (上毛新聞 2010年12月19日掲載) |