視点 オピニオン21 |
■raijinトップ ■上毛新聞ニュース |
. | |
|
|
◎捨てる神と拾う神 人は苦しいとき四苦八苦するといいます。その四苦とは生老病死のことで、生まれること、老いること、病にかかること、それに死ぬことを指しています。仏教では生まれることも苦しみで、これらはすべて人が生まれながらに持っている苦しみであるといいます。 ところで、人はなぜ老いて病にかかり死ななければならないのでしょうか。人々は昔から、生老病死は人の宿命であって、しごく当然のことと考えてきました。それに病気になることは前世からの因縁という思想も加わって、どちらかというと、病気は病気になったその人の個人の問題と考えられがちでした。 そのようなわけで、病気の原因がいろいろな病気の間で共通であるなどとは誰も考えることはありませんでした。 ところが現代科学では、さまざまな病気の原因は共通であって、その共通な原因として次のような単純な答えを用意したのです。それは「体がさびるからだ」といいます。そしてその仕掛け人が今話題の活性酸素だというのです。しかも人々が生老病死を人の宿命と考えたのと同じように、現代科学も、病気は人が酸素を利用したために発生した当然の結果で、それは人間の運命であるというのです。 鉄がさびる、それは鉄と酸素が化学的に結合することで、それを酸化といいます。この酸化で硬い鉄も最後にはぼろぼろになってしまいます。それと同じように、人の体も酸化してさびるといいます。そして老化や病気それに死までもが酸化の結果であって、その原因が活性酸素だというのです。 活性酸素という言葉の響きからは、なんとなく人間を元気付け、活性化してくれる正義の味方のように思われるかもしれませんが、実態は全くその逆で、その活性とは酸化する力のことで、物をさびつかせる力のことです。その力が極めて強い酸素が活性酸素です。大気中の普通の酸素などよりもはるかに大きな酸化力をもっています。そしてその強い酸化力が人の体を蝕(むしば)んでしまうのです。老化や病気は酸素で体がさびたために発生していたのです。 その活性酸素の最大の発生源は喫煙です。たばこの煙の中には大量の活性酸素が含まれているばかりか、喫煙によって体内に吸収されたたばこの有害物質を処理するために、体内でも大量の活性酸素が発生していたのです。たばこが癌(がん)をはじめ、あらゆる生活習慣病の原因であるのはそのためだったのです。 ところが喫煙者であっても大量の野菜を食べる人は食べない人と比較して病気の発生が少ないといいます。野菜には酸素の毒を中和する力があったのです。たばこを捨てる神とすれば、野菜はまさに拾う神であったのです。 (上毛新聞 2010年12月6日掲載) |