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◎地域で絆を結ぶ第一歩 「こんなこと考えているの。どう思う?」と、バイオリニスト、五嶋みどりさんは、夕食の席で1枚の募集要項をバッグの中から取り出した。2001年6月、彼女が理事長として活動しているみどり教育財団(現ミュージックシェアリング)の活動で、四つの学校訪問のコンサートを終えた後の、ほっとしたひとときのことであった。 用紙に目を落とすと「演奏家、観客、そしてそれを結ぶ人々が一つの強い絆(きずな)で結ばれ、誰もが“私の、私たちのコンサート”と思えるような芸術的かつ創造的な体験『トータル・エクスペリエンス』を目指すという願いがこめられており…」と書かれてあった。開催は翌年の2002年。この年は彼女にとって、デビュー20周年、みどり教育財団設立10周年にあたる年だった。彼女はこのテーマを通して、これからの音楽家としてのあるべき姿勢を明確に打ち出し、新たに大きな第一歩を踏み出そうとしていた。 家に帰って考えてみた。このコンサートが、地域で「絆」を結ぶきっかけにならないだろうか? 応募の締め切り日まで1週間しかなかった。翌朝、私は募集要項を持って、大泉町文化むらに出かけていった。「やりましょう!」という力強い言葉が返ってきた。その足で、大泉町役場に向かった。広報課、国際課、学校教育課と回って、職員の方からいろいろな話を伺った。当時、大泉町は人口の14%を外国人が占めていた。その中でも日系ブラジル人が多く、言葉の壁により不登校児童が増えていることが問題のひとつだった。 私は住んでいる町の様子を何も知らないということにあらためて気づき、そして驚いた。町を見渡してみると、ポルトガル語の看板が目に付いた。マーケットで買い物をしていると、ここは日本だろうか? と錯覚するようなこともあった。見知らぬ外国人に「お金をください」と声をかけられ、慌てて帰宅したこともあった。日本語とポルトガル語、どうすれば言葉が通じなくても、コミュニケーションをとることができるだろうか? 文化、風習の違いをまず知ることから始めたらどうか、ひとつの目標に向かってやっていけば、きっと心は通じるだろうと、考えを進めていった。 「ポルトガル語講座」「カポエイラの体験」「ブラジル料理」「ブラジルのこどもたちが通う塾の紹介」「茶の湯・いけばな・和楽器の演奏」「日本人と外国人の小学生による合唱」「日本人と外国人の中学生による絵の共同製作」…21のイベントにいろいろな思いを込め、「響悠(きょうゆう)空間」と名づけた。 1カ月後、選考の結果が届いた。127あった応募の中の13に選ばれ、開催のスタートをきることになった。こうして地域の人とブラジル人との交流の第一歩が始まった。 (上毛新聞 2010年11月18日掲載) |