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実践女子大教授  大久保 洋子(東京都江戸川区)



【略歴】富岡市出身。実践女子大、同大学院卒業。博士。管理栄養士。都立高校、文教大短大部、目白大短大部を経て実践女子大教授。学部長。専門は調理学、食文化研究。


秋の行楽考



◎ゆっくりは今や贅沢か



 地球環境の変化による異常気象の中、日本も例年にない暑い日が続いた今年の夏でした。やっと実りの秋を迎え、山野の美しい変化を楽しむべく旅姿の人々が目につくこのごろです。そんな中、平年通りとはいかないようで木の実など野生の動物のえさが十分でないために冬眠前に民家を襲うというニュースが報告されています。私の知人も熊(くま)の被害にあって、幸い留守で鉢合わせはせずにすんだそうですが、家を壊され多大な損害を被ったという話を聞きました。

 昨今は、昭和の中ごろ庶民の味方であった鯵(あじ)や鰯(いわし)も結構な価格です。江戸時代には加工力に限界があったために鰯など獲とれすぎると、畑の肥料にしたといい、正月の「たづくり」の名称はそこからきたということです。マグロなども下魚に属し、特に「とろ」などは見向きもされなかったそうで時代によって価値観が変わる典型的な例でしょう。

 今後の食料事情が良い方向に向かうことを願って、毎日の食事作りにできるだけ季節感を取り入れ楽しんでいます。

 最近の大学は授業数確保のために祭日開講が多く、ゆとりがありません。結果、通勤の車窓やキャンパスの木々の変化で季節を感じる次第です。キャンパス内の銀杏(いちょう)並木も実をつけ、処理をして干していても学生は関心を示しません。

 ここで行楽について述べてみます。庶民層に属する人々は江戸時代になると神社仏閣への参拝に出かけるようになります。特に伊勢神宮には集落で講を組織して代表者が参拝に行くというシステムができます。

 幕府所在地の江戸でも、桜を代表とする花見行楽を味わっています。王子の飛鳥山や隅田川縁の桜は吉宗が植樹させたといわれています。東京には○○富士という地名が結構あります。「富士山へ一度は行きたい」と思う人が多かったため、富士が望める場所や富士にみたてて塚を人工的につくっての名称です。そして人々が集まる所に飲食店などの商売が発展し、情報が地域に伝播(でんぱ)していきます。

 昭和20年代生まれの人たちは、年々、生活環境が清潔で便利になり、まさに発展とともに生きてきた世代と思います。一方、スピード時代となり、鉄道も早さを競い、その恩恵に感謝しながらも、一方で車窓からゆっくり変わる景色を眺めたいと思うのは贅沢(ぜいたく)なことになってしまいました。

 インターネットで各地の名物も行かずして取り寄せ可能になり、メディアの開発には目を見張るものがあります。南の島の素晴らしい青い海と白い砂浜は、体験した人は実感がわくでしょうが、行かない人の感動とは質が違うことを知る必要があると思います。ゆったりと1カ月くらい休みがとれる欧米型の生活がいつの日か実現することを願い、最終原稿を終わります。






(上毛新聞 2010年11月8日掲載)