視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
対話法研究所長  浅野 良雄(桐生市三吉町)



【略歴】東京福祉大大学院修了。群馬大工学部卒業後に電機メーカーで自動車関連部品の研究開発。その後、コミュニケーションの指導や講演活動などを行っている。


話し手の意図



◎通じるかは相手次第



 とかく人は、「どう話せば相手にうまく通じるか」に関心が向く。しかし、うまく伝わったかどうかは、最終的には聞き手の受け取り方にかかっていることを意識している人は少ないだろう。話し手の意図が通じたかどうかは、相手次第なのである。このような現実から、自分が話し手である時は、「いくら努力しても通じない可能性がある」ことを覚悟しておくことが重要である。反対に、自分が聞き手である時は、相手が伝えたいことを、できるだけ正確に理解するよう努めることが重要である。

 特に子どもは、自分の気持ちを的確に言語化できないことがある。たとえば「おもちゃを買って」とねだる幼児の真の欲求は、必ずしもおもちゃでなく、「親と遊んでもらいたい」ことであったりする。このような場合、「言葉」だけを真に受けて、おもちゃを買ってあげても、子どもは満足しない。言葉の奥にある「真の気持ち」を推測して、そこに対応することが大切なのである。なお、推測が合っているかどうかを、たとえば「もしかしたら、遊んでもらいたいの?」のように確かめる(私は、これを確認型応答と命名している)となお良い。もちろん、相手が乳幼児である場合は、自然と、このような対応をする人が多い。しかし、子どもが成長するにつれ、とかく忘れがちになるため、注意が必要である。なお、程度の差こそあれ大人でも言葉と真意が異なることがあるので、真意の推測と、その確認は重要である。

 確認型応答を主体とした「対話法」は、私が16年前に考案したものである。その後、これに賛同する仲間と、日本対話法研究会を設立した。会員は、教員、保育士、医師、施設職員、デザイナーなど多岐にわたる。ある養護教諭によると、泣きながら保健室に来て、出来事や気持ちをうまく説明できない児童から話を聞くために役立っているそうである。小学校の先生は、学級内での子ども同士のけんかの際に、それぞれの言い分を確かめながら対応することで、子どもたちの気持ちが治まるとのこと。そして、先生自身も、確認スキルを知っていると、慌てずに対応ができると言っている。また、高齢者施設の職員によれば、自分の預金通帳の所在を毎日確かめないと落ち着かない入所者に対して、彼が気持ちを推測して、「Aさんは、お金のことが心配なんですよね」と、確認をしてみたところ、翌日からその行動がなくなり、他の職員もホッとしたとのことである。そして私は、確認型応答の効果を実証する研究をしているが、高校生が、ホームルームの時間にクラスメートと確認スキルを練習した結果、孤独感が減少し、学校生活満足度やコミュニケーションスキルが向上するということが分かった。







(上毛新聞 2010年11月7日掲載)