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外務省生物多様性条約COP10日本準備事務局  橋本 幸彦(前橋市上小出町)



【略歴】大阪大基礎工学部卒。東京大大学院農学生命科学研究科修了。農学博士。元自然環境研究センター職員。5年間、尾瀬でツキノワグマ対策に取り組んだ後、現職。


COP10と生態系



◎多くの支える力が必要



 10月18日から29日まで、愛知県名古屋市で国連生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催されました。生物多様性の減少を食い止め、増加に転じさせるためにさまざまな議題について話し合われました。

 この会議に参加するために世界中の国々から多くの方々が来日しました。事前の登録者数は約12000人で、当初の予定を大幅に超え、これは過去の会議の中でも最多でした。

 多くの成果を出すために各議題について綿密な準備が進められている一方で、参加者が会議に集中できるよう、広範にわたる準備が不可欠でした。例えば、宗教や習慣上の理由で、食べられないものがある人もいますので、レストランやレセプションで出されるすべてのものには使っている食材を記載する必要がありました。

 また最後の3日間(27~29日)の閣僚級会合では日本の複数の閣僚のほか、各国から大臣や首相といった要人が来日しました。参加者の安全を確保するために、会場となる名古屋国際会議場では入場者を登録制とし、売店や宅配便の業者も含め、われわれスタッフをすべて登録しました。

 多くの国々が来日するので、国ごとの不公平が生じないよう、会議の配席を決めたり、マイク、ネームプレートなどもかなりの数が必要ですし通訳も手配しなくてはなりません。国連の会議ですので国連公用語である英、仏、中、露、スペイン、アラビア語と開催国語である日本語の計7カ国語の通訳が会議の期間を通じて必要でした。COP10を円滑に進め、地球や人間の将来に向けてすばらしい結論を導きだすためにその陰ではさまざまな準備がなされてきたのです。こういった多くの人の尽力のかいがあり、今会議では歴史に残る大きな成果があったのでうれしく思っています。

 話は変わりますが、自然保護を訴える際に、クマやトラ、ゾウ、ワシ・タカなどの猛禽(もうきん)類などといった1個体が大きい動物や栄養段階の高い捕食者がしばしば対象とされます。このような動物はその体を維持するのに多くの食べ物や広い行動圏が必要になります。その保護には広い生息地が必要で、結果的に、その動物を保護することがその生態系に棲(す)む多くの生物の保護につながります。このような種をアンブレラ種と呼びます。見方を変えるとこのアンブレラ種は多くの他の生き物に支えられているといえます。

 国際会議と生態系、一見無関係に見えますが、目につかない多くの力に支えられて、成り立っているという共通点があります。ほかにもいろいろなことに当てはまるでしょう。生態学を学び、COP10の準備に携わるにあたり、この支える力こそが重要だと改めて感じました。






(上毛新聞 2010年11月3日掲載)