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東京福祉大学大学院教授  手島 茂樹(前橋市下佐鳥町)



【略歴】日本大大学院文学研究科心理学専攻博士課程。育英短大教授を経て現職。専門は臨床心理学。大学院にて臨床心理士を養成。日本パーソナリティー学会理事。


援助システムの必要性



◎競争社会だからこそ



 精神衛生をどう保つか、最終回ではそのことに触れておきます。一つは、今という時代背景と心の健康の維持の難しさとの関係の理解です。我々は「袖すり合うも他生の縁」という人や出会いを大切にしていますが、現在は不景気、そして国際化の流れ等々から、厳しい成果主義です。

 叱(しか)られたり、怒られたりは昔からあります。しかし、かつてはそこまででした。今ではそれがくびに結びつく。そこが厳しいのです。だから、ぱっと空気を読み、さっと行動できる力が求められています。しかし、器用な人はそれほど多くないので、ごく普通のほとんどの人々の心の健康が心配されているのです。

 では、うまく立ち回っている器用な人々は大丈夫でしょうか。そういう人は多分に気を張り、毎日を頑張っているので、エネルギー切れが心配なのです。責任感の強いまじめな人々も注意が必要です。厳しい状況ゆえ、自己を責めがちになるからです。そこで、今の世の中は皆が皆、心の健康を害しやすい、そう理解してほしいと思います。決して他人事ではないのです。

 二つ目は予防策。競争社会ではうっかりしているといつしか孤独にさらされて、心の健康が脅かされます。最も重要なことは、他者との通じ合いがもてているかです。同じ趣味の人々とのお茶飲み会もよいでしょう。しかし、友人同士でも遠慮があり、深い話はなかなかしがたいもの。そこで、意図的に何でも話せる勉強会への参加も考えて欲しい時代だと思います。

 それがカウンセリングと名の付く研修会です。例えば、私が会長を引き受けている高崎カウンセリング協会。そこはカウンセラーになるためではなく、よき市民になることを目的としながら、通じ合える人間関係を築くための話の聴き方や伝え方を勉強しています。

 その結果、自分の心の声を知り、自分取り戻しができています。例えば、うまくやって重要な人に認められなければならないなどの考え方から解放され楽になっています。他のカウンセラー養成講座もカウンセラーになるためだけでなく、自分に合わせた目的で受講していけばよいのです。

 最後に、メンタルヘルスを崩してしまったらどうするか。それが三つ目です。その場合は病院を積極的に訪ねてください。一昔前と異なり、偏見が減って行きやすくなっています。カウンセラーのいる病院が多くなっています。薬とカウンセリングで、より早く解放されます。あれこれと迷うのが一番いけません。

 今は自殺者数が年間3万人という非常事態です。だから、社会全体も心の大切さに気づき始め、いのちの電話等の活用も一般化されています。競争社会だからこそ、我慢しないで誰でも助けを求められるシステム作りが必要です。







(上毛新聞 2010年10月28日掲載)