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社員教育研修「イマージュ」取締役  久保田 桂子(前橋市笂井町)



【略歴】渋川女高、青山学院大卒。日本航空国際線スチュワーデスを経て、社員教育研修「イマージュ」を設立。病院、施設、企業研修に注力。県商工会連合会エキスパート。そば処静庵女将。



待つ楽しみを味わう



◎幸せのレベルを下げる



 “以心伝心”。黙ってても気持ちが通じ合う友人が一人でもいる。それだけで人生はどれほど豊かで幸せなことでしょうか。しかし人は実際に同じ体験をしないと気持ちがわからない。仮に同じ体験をしたとしても真に理解しあうのは難しいのではと思います。「全部をわかってもらえない」と不平を言うより「少しでも理解しあえた」と思う方が幸せです。

 “幸せのレベルを下げる”。この表現が適切かどうかわかりませんが、“朝起きられる”“眠れる”というような一見“当たり前”の幸せをどれだけ感じられるかということです。

 高度成長期バブル期、私たちは学歴や有名企業に入ること。ブランドや金や物のようなもの=豊かさと思い、それらにとらわれすぎた時期がありました。それはそれでひとつの価値観ではあるでしょう。しかし目に見えるものに執着しすぎ何かとても大きな大切なものをたくさんたくさん落としてきた感じがします。

 国民性に目を向けた時、私たち日本人はかなりせっかちな部類に入ります。信号待ちで少し発進が遅れると間髪入れずクラクションです。

 かつてイランのレストランで経験した忘れられない光景があります。突然の停電で真っ暗闇になりましたが、客は驚くことなく食事を続けていました。やがて各テーブルにキャンドルがともされ一時間くらいの間、皆いつ電気がつくのか楽しみに待っているようにさえ感じられたのです。明るさが戻った時大きな拍手が起こりました。日本でもし同じことが起きたならパニックになると思います。

 習慣や国民性と言えばそれまでですが、わが国は物があまりにも簡単に手に入る。四季を問わず何でも買えます。水道の水ひとつを例にとっても蛇口からじかに水が飲める国は日本、米国、英国、カナダ、ドイツ、スイス、オーストラリア、シンガポール、ニュージーランドくらいです。この事実ひとつ考えてもものすごくありがたいことです。

 昔、服の新調はお正月だけでした。西瓜(すいか)は夏だけ。指折り数えその時まで待つ。“待つ”という行為がどれほど心を豊かに、わくわくさせてくれたことか…。

 あるきっかけを経て私は命は自分ではどうすることもできない。だからこそ与えられた命を死を迎えるその時までどれほど苦しいことがあっても、精いっぱい生ききるしかないと思えるようになりました。

 人生の豊かさとは物や金や地位のような移ろいやすいものではなく、生かされていることに感謝し、他と比較することなしに生活の中に幸せを見つけること。自分の行為に少しでも人が幸せになることではないかと思います。1年間拙文を読んでいただき深く感謝致します。






(上毛新聞 2010年10月26日掲載)