視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
NPO法人自然塾寺子屋理事長  矢島 亮一(高崎市中尾町)



【略歴】宇都宮大大学院修士課程修了。青年海外協力隊員としてパナマで2年間活動し、帰国後に自然塾寺子屋を立ち上げた。2003年にNPO法人認証を受けて現職。


自然塾寺子屋の10年



◎国際協力は地域の文化



 NPO法人自然塾寺子屋の活動が始まって来年で10年になる。海外、特に途上国で活動してきたわれわれが本活動を始める前に契機となったことがある。まず先進国だと思っていた日本で起きた、考えられない残虐な事件、事故の数々。また高度経済成長に伴う倫理観や文化・伝統の喪失。逆に途上国だと思っていた国の方が、時間的・文化的豊さがあり、安全で暮らしやすいのではないかと感じたこと。そんな経験をした青年海外協力隊OBができることは何か。この経験を日本社会にフィードバックする方法は何か。そんな数々の思いを胸に故郷である群馬で活動してきた。

 主に活動する甘楽富岡地域は、温かい人間関係のある古き良き農村の雰囲気を残す素晴らしい地域である。現在までにこの地域で研修を受けた日本人の青年海外協力隊や地域振興を学ぶ大学生等の研修生は約300名にのぼり、世界各地に飛び立ち活動をしている。そしてこの地域で研修を受けた多くの卒業生たちも研修指導してくれた方々のことを家族のように思い、この地域を第二の故郷だと思ってくれている。

 それは研修生が、ただ景観が良いとか、自然が豊かだということだけではなく、ここに根を張って生活する方々の生きる姿勢、地域への誇りをもっている姿に感銘を受けていることに起因するのではないか。さらに農村地域特有の閉鎖的な雰囲気がなく、外部者である研修生を快く受けいれてくれる協力があるからこそ、この地域に愛着を感じ第二の故郷だと思ってくれるのであろう。

 また、海外からの農村開発にかかわる研修生は現在までに約100名を超え、中にはこの地で農家民泊をしながら研修を受けた者もいる。研修は日本の農業の発展・農村開発のプロセスと農業体験をするだけにとどまらず、農村生活を体験し、文化交流と人的交流の場になっている。帰国した研修員は農業研修の経験をその地域の農村開発政策に活いかすだけでなく、なかなか行われていない現場に赴く農村開発活動につながっていると好評である。

 さらに、この甘楽富岡を自分の人生のステージに選ぶ卒業生も出てきた。「甘楽富岡で農業をやります!」という言葉には、研修に関係した方々や行政、農協が本気になって支援してくれている。国内の多くの農村、漁村で過疎化が進む中、この地域には逆に永住しようとする若人がいる。これはまさに夢をもって農業を考え、地域を盛り上げていこうとする甘楽富岡地域の熱い人々がいるからこそ、あこがれる若人が出てきたのだと思う。こんな関係作りこそ日本の地域振興や農業振興のきっかけになると確信している。まさに国際協力が甘楽富岡地域の文化になろうとしている。






(上毛新聞 2010年10月25日掲載)