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群馬大大学院工学研究科教授  宝田 恭之(桐生市菱町)



【略歴】群馬大大学院修了。東北大の研究所などを経て群馬大工学部教授に。同大工学部長を2005年から、同大大学院工学研究科長を07年から09年3月まで務めた。


クラブ活動今昔



◎母親の深い関与を憂う



 酷暑の夏が過ぎ、赤城山からの秋風が心地よい。スポーツの秋である。身体を動かし、汗を流すだけで爽快(そうかい)である。ストレス解消によるリフレッシュ効果もあり、また成人病予防のためにも有効である。

 以前の本欄で、若者の多くが「指示待ち族」であることを指摘した。指示されればある程度の仕事はこなすが、何も言わないと何にもしない。これからは、自発的に行動でき、何事にも最後まで粘り強く、バイタリティーあふれる若者が求められる。「労を惜しまず」「献身的」「粘り強さ」「集中力」などは死語になりつつあるが、大変重要なことであり、スポーツに通じるところも多い。

 中学、高校などのクラブ活動は教室内では得られない貴重な体験ができ、人格形成にも有効である。筆者も野球部にいたことがあり、身体も精神的にも強くなったように思う。顧問の先生から平手打ちを食らったこともあったが(今ではそんなことをしたら大変)、それは適切であったし謙虚に反省もした。先輩後輩の関係、闘争心、達成感なども得られ、教育効果は極めて大きい。

 ただ、最近は様子が随分違う。父兄、特にお母さんの関与が大きい。聞くところによると、土日の練習や試合には必ず母親が参加して朝から晩まで付き添い、お茶くみ当番などもある。我々のころ、部活の練習に母親が来るなどということはなかったし、考えられないことである。我が子の活躍ぶりを見たいという純粋な気持ちで自ら足を運ぶのであれば問題ないが、それでも許されるのは範囲外のところからそっと見ている程度と思う。

 ところがお茶くみどころか、顧問やコーチの送迎や手作り弁当のサービスなども珍しいことではないらしい。いろいろ思惑があるのかもしれないが、これでは子離れしない親のために、親離れしない子供が育成され、クラブ活動の本来の良さが発揮できない。

 土日の当番は半ば強制になっていて、仕事を持っている父兄のなかには、仕事を休むことを余儀なくされる場合もあると聞く。さらに、宴席を設けることもあり、言語道断である。こんな部活は百害あって一利なし。

 また、スポーツ推薦による入学制度では、顧問の先生の意見が反映される。公務員倫理法規定では利害関係者からの物品、宴席などの提供は禁じられており、不祥事に発展しかねない。

 「今は時代が違うよ」と言われるかもしれないが、我々のころの顧問の先生は何の見返りもなしに、土日も真剣に指導してくれた。私にとってクラブ活動で得た最大の収穫はその先生の教育への真摯(しんし)な情熱であったかもしれない。子供の健全な育成のためには、毅然とした態度が欠かせない。








(上毛新聞 2010年10月21日掲載)