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◎長期展望で健全育成を 日本は未曾有(みぞう)の少子高齢化社会を迎えようとしています。そのような状況にありながら子どもの虐待や、児童、生徒による暴力事件は年々増加し、自殺やひきこもりは減少の兆しがありません。 国や自治体は経済の再生や雇用を創出して働きながら子育てをしやすい社会を目指しています。しかし、安全な出産のための産科医の確保、妊婦健診の無料化など周産期医療の充実はまだまだ十分ではありません。出産後は育児休暇に対する職場の理解、乳幼児から学童期までの保育環境の整備が必要です。「子育ては楽しい」と思える社会でなければなりません。 たとえ「かぜ」であっても、子どもの病気は本人のみならず周囲へもさまざまな影響を及ぼします。予防できるはずの感染症も全国規模ともなれば家庭生活や社会経済の損失は計り知れません。影響を最小限に留めるためには世界水準から大幅に遅れた予防接種行政を改め、学校や企業での危機管理としての感染症教育を推進する必要があります。 政治や経済は数年先も見通せない状況ですが、子育ては数十年にわたる長期の展望をもって一人の子どもを健全な大人、親になるよう育てる責任があります。国も場当たり的な政策やばらまきではなく、真剣に子どもたちの未来を見据えて少子化対策に臨んでほしいものです。 社会が多様化し、それぞれの個性や権利を尊重する一方で、人とのつながりは希薄化しています。子どもたちの生活も、夜型化、マスメディアとの過剰なかかわり、食や心の乱れなど以前とは異なるさまざまな問題が深刻化しています。社会規範や道徳といった当然のことが軽視されがちで、家庭や学校での教育の役割は一層高まります。 家族で食卓を囲み、会話を楽しむことは、子どもたちにとって大変重要です。子どもの社会性を育はぐぐむには家族の支え、健全な家庭の存在が不可欠です。手間をかけた食事で小さなころから薄味に慣らすことは、家の味を記憶するだけでなく、将来の肥満や生活習慣病、がんのリスクを軽減します。身だしなみや清潔をこころがけることは感染症の予防に役立ちます。核家族化が進んだ今日、昔ながらの3世代以上同居の家族形態は、子育てにも高齢者のためにも見直されるべきでしょう。 多くの小児科医は毎日、手洗いやうがいの大切さを説き、こつこつと予防接種に励み、食事や生活の指導をして将来のからだや心の病気を未然に防ごうと努めています。子どもたちや保護者の方に少しずつでも何かを伝えていくことは、この国をより良い方向に導くためのささやかながらも遠大な計画の一歩なのです。 (上毛新聞 2010年10月16日掲載) |