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◎誇れる繊細な感性 「第31回草津国際音楽アカデミー&フェスティヴァル」が今年も開催されました。群馬交響楽団はもとより、日本全体の音楽的レベルを高める目的をもって、初回から世界第一級の演奏家達が講師に招かれています。 最近の同アカデミーで特に感じることは、若い受講生のレベルが大変高くなっているということです。これは日本の音楽界が成熟しつつあるということではないでしょうか。彼らは、確かな技術とともに非常に繊細な感性を持って演奏しています。心に響く演奏です。 日本人には、世界に胸を張って誇れる繊細な感性があります。四季折々の美しい自然から取り入れた数々の微妙な色彩、着物などに見られる配色の妙! 繊細な気持ちを表す美しい日本語。能の世界にみられるような一瞬にして変わる潔さと呼吸の深さ。また、農耕民族としてのおおらかさ等々。 作曲家やその時代背景、その作品の細部について追求していくと、私たちの中に知らず知らずのうちに組み込まれている日本人としての繊細な感性が目覚めてきます。西洋音楽の基礎、音楽の言葉を敬虔(けいけん)に学ぶことは大前提ですが、私は、日本人としての感性を大切にし、誇りを持って表現をしていこうと思っています。 演奏するということは、物まねではなく、自分独自の音の世界を作り上げていくことです。そのために、自分の内面を深く観(み)て、そこで自分の納得のいく音を見つけ、創(つく)り上げていきます。 絵画を例にとっても、水彩画、油絵、墨絵、同じ山を描いても実にさまざまです。しかし、これでなくては表現できない方法を画家は選んでいるのだと思います。繊細な線、力強い線でも「これしかない」という線を追求しているのです。 音楽家も同じで、自分の中の「これしかない」という音をとことん追求しています。そこを拠り所にしなければ、本当は一つの音だって発せないものです。同じ作曲家の作品が演奏されても、演奏家によって全く違う音色や表現になります。だからこそ、私たち日本人が独自の感性で、異文化である西洋音楽にアプローチすることは、その作品にとっても新たな世界が開けることになるのではないでしょうか。 オーケストラにしても、群響の音、ウィーンフィルの音、ベルリンフィルの音といった、それぞれでしか聴けない独自の音が大切だと思います。自分のなかの感性に気づき、育み、そこから勇気を持って発信していくことは、音楽の世界に限らず大切なことだと思います。 本欄に6回書かせていただいたことも、自分を見つめ直すよい機会になりました。拙文を読んでくださった方々に感謝いたします。 (上毛新聞 2010年9月30日掲載) |