視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
新島学園短大准教授  山下 智子(高崎市飯塚町)



【略歴】福島県出身。同志社大大学院神学研究科修了。日本基督教団正教師。サンフランシスコ神学校留学、会津若松教会牧師などを経て、2008年春から現職。



8月6日の広島



◎平和への祈りに満ちて




 今年の8月6日は広島に行って来た。平和祈念式典に出席し、原爆資料館(平和記念資料館)を見学、一日を平和記念公園で過ごし、どんなにメディアが発達しても、その日、その時、その場所に行かなくてはわからないことがあるのだと強く感じた。

 8月6日の広島は初めてだったので、行く前に広島出身の友人にアドバイスを求めた。友人は「地元ではハチロク、ハチロクといって、この日はお祭りみたいなものだから」と語った。大勢の方が原爆の犠牲になられた日がお祭りみたいだというのはどうにもピンとこなかったが、行ってみてなるほどと思った。

 お祭りといえば金魚すくいや綿あめなどの出店が並ぶが、8月6日の平和記念公園ではさまざまな平和を願う行事が隣り合って行われていた。祈る人、歌う人、演じる人、写真を撮る人、灯籠(とうろう)を流す人。さまざまな人々がさまざまな方法で平和を願っていた。それぞれに立場や考えも違うだろうが、不思議なことに公園内は不思議な一致と祈りに満ちているように感じられた。平和を求める人々は、お互いの違いを否定するのではなく、それを認め受け入れ、共に歩むことができるのだと感じた。

 8月6日の原爆資料館に親子連れが大変多いことにも驚いた。文字の読めない幼いわが子のために、まだ大学生のようにも見える若い父親が被爆者の遺品について一生懸命説明をしていた。原形をとどめないほどボロボロになった衣服を前に「どうしてかな」と問う父親。ちょっと首をかしげて考えた後「わかんない」という息子に、「熱くて痛くて苦しいのをたくさんたくさん我慢したからだよ」と幼い子にも理解できる言葉を選びながら原爆の悲惨さをなんとか伝えようとしていた。小さな子どもにとって原爆資料館は楽しい場所ではないだろうが、この日を選んでこの場所に来た若い父親の平和を願う気持ちと、この幼い男の子がやがて大人になった時に持つだろう他人の痛みへの想像力と思いやりを思った。きっとこの若い父親も誰かからこうした生きる姿勢を受けついだのではないだろうか。

 新島学園短期大学の教育モットーは「真理・正義・平和」である。これは聖書から採られたもので、本学では特に「平和」を「相手の価値観、感情を尊重すること」と受け止め、このことを大切に日々教育に携わっている。8月6日の広島では、たくさん考え、たくさん感じ、不思議な平和への希望をあたえられた。ぜひ本学での平和を求める教育にも生かしていきたい。








(上毛新聞 2010年9月26日掲載)