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独立行政法人 高齢・障害者雇用支援機構 
群馬障害者職業センター主任障害者職業カウンセラー  
                            中村 志美
(前橋市天川大島町)



【略歴】日本女子大卒。1994年に就職し、北海道と千葉のセンターや国立職業リハビリテーションセンターなどで障害者の就労支援に従事。2009年4月から現職。


復職プログラム



◎生活面の安定を土台に




 障害者の就労支援に取り組む支援者を対象とした研修会で、「働く上で大事に思うことは何ですか?」と問いかけた。そして、この話題でお互いに自己紹介をしていただいたら、少々青くさい質問でもあったせいか、皆さん照れながらの自己紹介タイムになった。

 「働く上で~」というテーマを考える機会は一般的にそうあることではないが、私は時折、時間を割く価値のあるテーマだと思っている。そう思うようになったきっかけは、うつ病などで休職している方への復職支援を行う中で「働く上で~」というテーマの大切さを再認識する機会が増えたからではないかと思う。

 しかし、このテーマについては「時折」という点もポイントで、四六時中真正面から向き合うのでは、疲れてしまうため「良い加減で」ということも大切だ。

 誤解のないように説明を加えると、復職プログラムにおける支援の中心は、生活リズムを整えることにある。働き続けるためには、寝る、食べる、休むといった生活面の安定が土台となるからだ。

 プログラムへの参加を通じて受講者は、自宅から外出する機会、日中に活動する時間、何かに取り組む集中力や体力を少しずつ取り戻し、会社で働くリズムに近づくことができる。ただし、これは復職に向けた準備で、さらにもう一つ、復職後に感じるであろうストレスに対処するための取組みも盛り込んでいる。

 うつ病は治る疾病でもあるが、残念ながら再発もする。プログラム受講者の中には休職と復職を繰り返している方も少なくない。再発や再休職を予防できる対処方法は「これです」という決定的なものはないが、ストレスに関連する知識を得てうまくやり過ごそうと考えることは大切だ。中でも、リラックスする方法や楽しい、うれしいといったプラスの気持ちを増やすコツを一つでも多く見つけてもらえるような支援を心がけている。

 そして、復職後に苦しいと感じるその時に、自分が置かれている状況を俯瞰(ふかん)しようとする別の視点をもてると、ストレスの渦に巻き込まれにくくなるのではないだろうか。

 この別の視点をもつ切り口となるのが「受講者の方々にとっての働き続ける意味や理由や動機等々についてざっくりとでも整理されること」だろうと思うのだ。復職後、勤務を続けている方のお話をうかがうと、体調が悪いなら悪いなりの優先順位をつけ、仕事や家事との折り合いを上手に付けているように思う。

 職業センターでは来所される多くの方々から「働きたい」という言葉を耳にする。その理由は「生活していくため」「将来的に結婚したいから」「働くのはあたりまえ」とさまざまであるが、これからも多くの「働きたい」を支援したい。








(上毛新聞 2010年9月25日掲載)