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武蔵丘短大准教授  高橋 勇一(東京都板橋区)



【略歴】前橋市出身。前橋高、東京大教育学部卒、同大大学院農学生命科学研究科修了。農学博士。アジア緑色文化国際交流促進会副会長として自然再生に取り組む。



ジブリ映画と環境教育



◎生きる大切さを示唆




 今夏、ジブリ映画『借りぐらしのアリエッティ』が公開された。小人の少女・アリエッティは、郊外にある古い屋敷の床下で、人間の生活品を借りながら、両親と慎(つつ)ましやかに暮らしていた。ある日、その屋敷に静養のために、少年・翔がやって来た。「人間に見られてはいけない」。これが床下の小人たちの掟(おきて)だった。しかし、アリエッティは翔に姿を見られてしまう。

 翔は「美しい種族たちが地球の環境の変化に対応できなくて滅んでいった。残酷だけど君たちもそういう運命なんだ」と意地悪に言う。これに対し、アリエッティは「私たちの種族が、どこかで工夫して暮らしているのをあなたたちが知らないだけよ。私たちは、そう簡単に滅びたりしないわ!」と強気で答える。

 地球上の生物は、未知の生物を含めて3000万種と推定されている。しかし、実際に把握されている種は約174万種にすぎない。とすれば、認識できている種はわずかであって、まだ人間に気付かれずに暮らしている小さな生命は多数存在していることになる。

 過去に地球上で起きた生物の大量絶滅は5回あった。しかし、自然状態での絶滅には数万年以上の時間がかかっており、絶滅速度は年に数十種程度であったと考えられている。ところが、現代の6回目の大量絶滅においては、1975年以降、1年間で4万種とも言われ、人間活動により生物が急速に絶滅していることが指摘されている。

 環境の時代に、人間はどのように生きるべきか。自然を愛し、好奇心旺盛で、危険を顧みず、自らが犠牲になって王蟲(おうむ)の怒りをおさめ、「風の谷」を救ったナウシカには、多くの人々が感動したであろう。「その者青き衣をまといて金色の野に降り立つべし。失われし大地との絆(きずな)を結び、ついに人々を青き清浄の地に導かん」という予言は、まさにナウシカによって成就された。また、照葉樹林を舞台に、自然と人間の対立という構図において、共生の道をさぐった「もののけ姫」にも、生きることについて学ぶ点が多い。

 宮崎駿作品は、子ども向けのよい映画をつくるという方針はあったが、もともと環境保護を意図的に取り扱ったものではないという。しかし、時代に敏感であればこそ、環境問題を背景に、人間と自然の共生や理想的な生き方を描くことが必然だったのだろう。

 アリエッティとの最後の別れで、翔は「君のおかげで生きる勇気がわいてきた」。「君は僕の心臓の一部だ。忘れないよ、ずっと……」と伝える。次世代を担う子どもたちに、自然や生命とのつながりを教え、理想の未来に向かって共に生きることの大切さを示唆してくれるジブリ作品は、環境と生命の教育という視点からも非常に高く評価できると思われる。








(上毛新聞 2010年9月24日掲載)