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◎教育と医療の充実を 2002年、アフリカ大陸を縦断しようと旅に出た。その旅で出会い、語り合った友であるジンバブエのルイス青年の顔は今でも鮮明に覚えている。 夜行バスに揺られること20時間。バスから降りる私を迎えてくれたのは物乞(ものごい)をする人々だった。物乞いを見るのは初めてではなかったが、その人数に驚き、恐怖感を覚えた。そのバス停から離れ、宿を探そうとガイドブックを開いた時であった。「ガイドをするよ」と声をかけてきた人物、それがルイスだった。私は彼の相手をすることなく宿を探した。目的地に着き、受付で部屋が空いているか尋ねた。「部屋はない」 私は諦(あきら)めてその宿を出た。次、また次と挑戦するが、どこも即座に断られた。そんな時であった。「宿を紹介するよ」。私は初めて彼の声に耳を傾けた。街から少し離れたところだが、素敵(すてき)な宿だった。この一件で彼を信頼し、ガイドをお願いした。 彼のガイドで歩いている時だった。二人の会話はふとしたことで弾むようになった。彼は私より年下で、妻と子どもが一人いるということ。私が30歳を超えて独身なのは変だということ。外貨を得るためにガイドをしているということ。内容は文化比較のような笑い話だったが、彼は次第に熱く語りかけてきた。 「ジンバブエは今、経済状況が非常に不安定だ。この国で生活をするために、価値が下がる国内通貨ではなく、外貨を手に入れたいのだ」。さらに続けた。「外貨を手に入れて裕福な暮らしをしたいのではない。自分の子どもを高等学校へ行かせたい」 私は彼に質問をした。「この国、あなたたちに必要なものは何?」。彼は即答した。「学校と病院だ」。彼の村には、学校や病院がないだけでなく、教師や医者がいない。だから教育を受ける機会は減り、体調の優れないものは弱る一方だという。「今の子どもたちがしっかりとした教育を受けられれば、その子どもたちがやがて国を貧困から救ってくれる。一生懸命学び教員や医者になった子どもたちが、次の世代を育てると同時にわれわれをもケアをしてくれる」 文化的な生活や安心して暮らしたいという願いを叶(かな)えるためには、教育と医療の充実が必要である、と私に再認識させたのは彼だった。私が理想的な社会について考える時、教育と医療にこだわるのは、物乞いをする人々の悲愴(ひそう)な眼差(まなざ)しと土埃(つちぼこり)にまみれた細長い腕、あの時の恐怖感にルイスの言葉が重なるからだろう。 あれから8年。ルイスの願いは叶ったのだろうか? 日本の教育と医療は充実に向かっているのだろうか? アフリカの人たちに気付かせてもらったことを私は生かしていきたい。 (上毛新聞 2010年8月24日掲載) |