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◎就農できる環境整備を 日本の農業従事者が年々減少し、農業の衰退が止まらない。日本人の食生活の変化と、価格の安い輸入農産物の増加により、競争力と農業の地位が大きく低下したといえるのではないか。他産業に比べると農業所得はかなり少ない。これは経営規模が小さく農産物の出荷量によって価格が変動しやすいこと、大雨や台風など気候にも左右されること、農繁期と農閑期の差があって安定した雇用が難しいことなどが要因だろう。 日本の農地全体の65%が、まとまった農地の少ない地域という統計もある。このような条件が農地の集積が困難で大規模化できない原因でもある。零細農家のほとんどが農業収入に頼ることができない。全所得に対する農業所得は15%にすぎないというから、他産業からのサラリーマン給与所得により家計を支えている事になる。 この状況の中で親は子供を農業の後継ぎにはしないのである。農業後継者の減少と、農業従事者の高齢化が進み、農村部においては深刻な問題である。 高度経済成長とともに、労働力の需要が高まった。しかし農業と商工業の所得格差が大きくなり、1960年代には30%近くあった農業就業人口が2000年には5%と大幅に減少したとされる。 専業農家が減り、兼業農家が主な担い手になっている。このような現状を考えると、農業を魅力ある職業にし、若い人たちが安心して就農できる環境整備が必要である。EU、欧州諸国では、自国の農業を守るために大きな予算をかけている。食糧の確保だけでなく、美しい田園風景を守ることこそ肝要である。 日本は山間地の多い地形なので、農業が果たす役割は自給率の向上ばかりではない。洪水や土壌の流出などの自然災害を軽減する。水田は小規模ながらダムの役目も果たす。景観などの環境保全など、その価値は年間8兆円とも言われている。農地保全の経済効果は計り知れないのである。 国の施策である「農地・水・環境保全向上対策」として、生態系や水質の保全・農地農業用水・農道の整備・草刈りなど地域全体で保全活動に取り組んでいる地区がある。農家だけでは農地保全管理ができない状況にあるのかもしれない。 農作物の価格は輸入農産物との価格競争にさらされ、高い付加価値や、ブランド力のあるものでない限り十分な利益を出す事が出来ない。貿易統計によると2005年の生鮮野菜の輸入量は100万トンを超える。おもに加工用や業務用ではあるが、国内の農産物への影響は避けられない。海外の集約農業に対抗できる国際競争力を持つ、強い日本農業の確立が望まれる。農地を有効活用し、富を生みだす工夫をしなければならない。 (上毛新聞 2010年8月12日掲載) |