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対話法研究所長  浅野 良雄(桐生市三吉町)



【略歴】東京福祉大大学院修了。群馬大工学部卒業後に電機メーカーで自動車関連部品の研究開発。その後、コミュニケーションの指導や講演活動などを行っている。


会話の中の省略



◎小さな誤解防ぐ工夫を



 私たちは、自分の心の中にあることを、すべて言葉に出しているとは限らない。話す時間が十分にない時や、すぐに的確な言葉が浮かばない場合はもちろんのこと、はっきり言いたくないことや、言わなくても分かってもらえそうなことは「省略して」話している。

 たとえば、「今日も帰りが遅いの?」という、妻から夫への言葉かけには、「いつもご苦労様です」、あるいは、「たまには家族全員で夕飯を食べたいね」などの言葉が省略されている。私たちが心の中で思っている事柄を氷山に例えるなら、実際に言葉として表に出てくる部分は氷山の一角なのである。一方、聞き手は、相手が省略した言葉を、想像や推測により補いながら理解するのである。この「復元」の過程で、聞き手の思い込みが入ると、話し手の意図とはまったく異なる言葉を補ってしまうことがある。それが誤解である。私たちは、普段の会話の中で自分が言葉を省略していることを、ほとんど意識していないが、誤解の予防について考える時には避けて通れない問題である。

 ところで、私たちは、「角を立てたくない」という配慮から、本当の気持ちを言わないことがある。言葉の省略の極端なケースである。たとえば、知人から食事に誘われた際に、行きたくない深いわけがあるにもかかわらず、それを言いにくい時、「最近、仕事と家庭で手がいっぱいで、気持ちのゆとりがなくて…」と、差し障りのない理由で断ったとしよう。これを聞いて、知人が真意を察してくれればいいのだが、逆に、「何か家の中で大変なことでも起こったの?」などと質問されて困ることがある。あるいは、その時はなんとか断れたとしても、本当の理由を伝えていないので、数日後に再び誘われないとも限らない。このように真意を省略すると、思わぬ結果になる可能性が高い。

 このような場合の対応法に、断るだけでなく代案を一つ二つ出す方法がある。しかし、言い方をいくら工夫しても、その効果には限界がある。相手に良かれと思って発した言葉であっても、それをどう理解するかは相手次第だからである。

 ところで、互いに信頼のある間柄では、どんな言葉でも、比較的善意に解釈してもらえる可能性が高い。逆に信頼が薄い間柄では、いくら考え抜いた言葉であっても悪くとられる可能性が高い。これらのことから、自分の話を誤解されないためには、言い方を工夫することに加えて、日ごろの信頼関係作りが重要だということが分かる。それには、自分が相手を誤解しないことが大切である。その実現のために、会話の中で、必要に応じて、相手が言いたいことの要点を確かめる「確認型応答」を心がけ、信頼関係の低下につながる小さな誤解を防ぎたい。






(上毛新聞 2010年7月27日掲載)