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◎人との出会い大切に 人は一生の間に、一体どれだけの人々と出会い、知り合うものだろう。幼い時の、血縁地縁のなかの、狭く濃密なつながりから、小学校からの学校時代に出会う友人たち、さらに社会に出てからさまざまな場面で出会う人々。関係の濃淡はあっても、それらの出会いが、生きていく間に記憶の底に落葉のように積っていく。 「こけし作り」というものを職業として長く続けていると、利害関係とは無縁の所で、人とのつながりというものを深く意識するようになる。 先月私の所属する日本こけし工芸会の主催する「平成22年度全国近代こけし展」が、東京日本橋で開催された。こけしの普及と、新人作家の育成を目的に、文化庁の後援を得て毎年開催されており、今年度は36回目になる。 「日本こけし工芸会」という組織は、各地のこけしコンクールで最高賞を受賞した作家の自主的な集まりであるが、前述の毎年1回の公募展をはじめ、各地の百貨店美術画廊などで、延べ470余会場にわたる創作こけし工芸展を続行し、創作こけし工芸の普及のために活動している。 もともと近代こけし、創作こけしの盛んな群馬県の作家が多いが、志を持った群馬の作家たちは、こけしのすそ野を広げるために、県内にとどまらず、地道な活動を展開していることを、ある自負を込めて述べておきたいと思う。 こけし展の会場では年齢、性別、職業を問わず、実にさまざまな人々と出会う。こけしを観賞することで空腹を満たせるわけでもなく、寒さをしのげるわけでもない。ただ、心に何かを感じてもらえるだけである。だからこそと言うべきか、初めて会った人でも、胸の一番奥の柔らかい部分を話してくれることもある。 こけし作りという、おそらく実利とは無縁の世界だからこそ、出会う関係だと思う。来場する人たちは作者と出会い、こけし作りの心を聞いて、とても感激してくれる。このような出会いがわれわれ作り手を刺激し、励まし、また次の一歩を踏み出させてくれる力にもなるのだと思う。 今回のこけし展の会場は、徳川4代将軍家綱の時代であった1653年、伊勢松坂から日本橋に出店したという、和紙の店に併設されたギャラリーである。創業350年余。国学者本居宣長もその係累という老舗である。 日本橋には長い歴史を持った店が多い。時代の積み重ねが醸し出すのだろうか、柔かく、洗練された雰囲気がある。こういう場所と人々のなかで仕事をできる幸いを思う。 こけし作りを通じた人とのつながりが、さらに降り積り、これからの時間が豊かなものになればと願う。 (上毛新聞 2010年7月16日掲載) |