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◎可能性を拾い集めて 私の店は前橋の手打ちそば専門店です。オープンして30年になろうとしています。今年6月のある日、Mさんという1人のお客さまが鶴1000羽を袋いっぱいに入れ持ってきてくれました。当店ではお食事に1羽ずつスタッフみんなで折った鶴をつけています。開店当初の数年間、営業時間は朝7時~夜9時。まだ常連さんもつかず経営は連日赤字続きでした。そのころ店繁盛の願いを込めつけ始めたのがこの折り鶴です。 「ママさん、これ集めたら何かくれるんかい?」。某お客さまの言葉にヒントを得、景品やお食事券と交換するサービスシステムを作りました。各自の鶴キープボックスを作り、その中にためてゆく形です。お客さまも楽しみながら集めている様子で、ボックスが増えるにつれ経営も少しずつ軌道に乗ってゆきました。 そのMさんは13年前から集め始めたとのことで、鶴は1羽ずつ丁寧に保管されていました。通算1000回来ていただいたことになります。13年で1000回。1年で約77回。ひと月6・5回。週1~2回のペースになります。自分に置き換え考えてみました。仮に外食を週1~2回したとし、同じ店に13年通うのはまずまれなことと思います。皆さんならいかがでしょうか。千羽鶴を受け取った時は感動してしまい、うまく言葉が出ませんでした。 現在、日本をはじめ世界中が閉塞(へいそく)感に包まれています。経済、社会ほかすべてが行き場を失い、さまよい苦しんでいる感じがします。外食産業も例外ではありません。閉店に追い込まれる店舗、ますますゴーストタウン化してゆく街に心が痛みます。本当に大変な時代です。しかし嘆いてばかりいられません。顧客が得をした、良かったと喜ぶさまざまなメニュー開発や時代のニーズを的確にとらえたサービスに努め経営改善をしてゆくことが急務です。 今回の千羽鶴で痛感したことは「店はお客さまで支えられている」ということです。ある説によると、人間は弱気になると「もうダメだ、これからもっと悪くなるかも…」と悪く考えるようにできているそうです。なるほど、私とて同じです。しかしこんな時こそ相手の喜ぶことや小さな幸せ、今まで見落としてきた大切なものを拾い集めてみることが必要に思います。そこに大きなビジネスチャンスを見いだす可能性が秘められていることでしょう。 以前、「大事マンブラザーズバンド」のヒット曲で心に残る歌詞があります。≪負けないこと。投げ出さないこと・逃げ出さないこと・信じ抜くこと、駄目になりそうな時それが一番大事≫。 本当に苦しい時に最後までやり抜くことができるか否か。生きることは壮絶な自分との闘いです。でも必ず活路はあると思います。 (上毛新聞 2010年7月7日掲載) |