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◎交流が文学作品に結実 上州の文学界をけん引してきた浅田晃彦氏。医師として活躍しながら1968年には直木賞候補にもなった。200編以上の作品を世に送り、県内および東京の大手出版社での著書は24冊に及んでいる。96年、80歳で永眠してはや14年、懐かしい気持ちで手紙を書かせていただくことにした。 《拝啓、浅田晃彦様 過日、久しぶりに敷島公園の文学碑を訪ねて来ました。雨に打たれた石碑は本来の美しい姿でした。7月31日は命日ですね。 天界に居られる浅田さん、覚えていますか。随分昔のこと、桐生のシマ画廊で私の企画により「記憶に残るあの作品展―14人」を開催しました。実に個性豊かな方々が参加しましたね。特に「芭蕉」主人の小池魚心さんは益子焼。油彩画では作家の故南川潤さんが「ひまわり」、桐女教師小島市造さんは「人物」、そして浅田さんには「建物」を出品していただきました。この時、魚心さんが毎日来客に、うれしそうに緑茶や中国茶を丁寧に入れていた姿を今でも思い出します。 そう言えば、皆さんは坂口安吾さんゆかりの顔ぶれでした。浅田さんは文学や史跡めぐりを安吾さんと、南川さんとは油彩も、魚心さんとは民芸やお茶を通して刺激的で不思議なお付き合いをしていたものです。浅田さんは後に、『坂口安吾桐生日記』『安吾・潤・魚心』や『上州茶の湯史話』などに結実させたのでしょうか。これら著書の縁で「安吾忌の集い」を20年も桐生で開催しているのですから。 歴史小説を通じての付き合いといえば、杉本苑子さん(文化勲章受章者)でしたね。『安吾桐生日記』はご本人が特に入手希望したほど、気に入ったようです。浅田さんあての手紙には「ミニ安吾の傾向がおありのようですが、女の私あたりにもございます」…と。また高野長英やテレビドラマ化などにも触れていました。歴史上の人物にお2人の共感があったのですね。 先日、前橋のご自宅を訪問した折、何点もの油彩を拝見しました。奇をてらわず、力まず、素朴な絵は、何十年もその場に飾られていたかのようでした。雪子夫人は日々あいさつと思って、会っているかも知れませんが。どうでしょうか。 まだまだ書きたいことはありますが、どうか、旅立ったお仲間たちと楽しいお茶を召し上がって下さい。さて、そろそろ筆を置かせていただくことにします。 敬具》 前橋か桐生、あるいはどこかの文学館で、浅田さんを紹介する展示コーナーがあってしかるべきと思うのだが、いかがなものだろう。ならば「上州は小説不毛の地」などと言われないで済むのであるが。 (上毛新聞 2010年6月30日掲載) |