視点 オピニオン21 |
■raijinトップ ■上毛新聞ニュース |
. | |
|
|
◎目が離せないプレー イチローと松井秀喜のどちらが好きかと聞かれた時に、私は二人をそういう目で見たことがないので、返事に詰まってしまう。好きか嫌いかと言うことなら、ペガサスの選手の方がずっと好きだ。 しかしこの二人のうち、どちらの野球が面白いかと聞かれれば、ためらわずにイチローの野球と答える。松井は、打席に立った時にホームランを打つかどうかだけを見ていればいいが、イチローはそうはいかない。内野ゴロでも内野安打にしてしまうし、塁に出ればいつ盗塁するか分からない。サードベースから、普通のランナーなら絶対にスタートを切らないような内野ゴロの間に、楽々とホームに還かえってくることもある。 守備でも同様だ。ライン際のフライであれ、右中間を抜けそうなライナーであれ、あらかじめ落下地点が分かっていたかのように追いついてしまうし、1・3塁になりそうなヒットでも、ランナーを2塁に止めてしまう。なぜなら、3塁に走れば、刺されると分かっているからだ。 つまり、イチローの野球は攻撃の時であれ、守備の時であれ、彼がフィールドに立っている限り、いつ何が起きるか分からない。極端に言えば一球も目を離せないのである。彼が、アメリカ野球に登場した時、アメリカのマスコミが野球の原点を思い出させてくれたと賞賛したのも、その一球も目を離せない野球を指して言ったのだろうと思われる。 テレビ視聴率の低下は、地上波から巨人戦を追いやった。しかしそれもフリーエージェント(FA)制が導入された1993年以来、巨人がどういう野球をやって来たかを考えれば、当然のことと言える。イチローの野球とはまったく反対の野球をやって来たのだ。いつ出るか分からないホームランだけを待っている野球で、後は風のような走塁も、守備の時のスーパーキャッチも、矢のような送球も、あっと驚くようなことなど何一つ起こらない。 野球というのは、9回の攻撃をしたら9回守らなければならないスポーツだ。その守備に、見るべきものが何も無いというのは、ゲームの半分の時間は退屈していなければならない。そんな野球を、誰が一回から九回まで、チャンネルを変えずに見るのだろうか。 幸い、群馬ダイヤモンドペガサスは、秦真司監督就任以来、スピードに重点をおいた野球を展開している。テレビ中継はないが、フィールドにいる選手から、一瞬たりとも目を離せない野球は、面白みと共に、4期連続の地区優勝をもたらしてくれた。 後期は、リニューアルされた県営敷島球場のカクテル光線の下でも、皆さまをより魅了する面白い野球で、お待ち申し上げたい。 (上毛新聞 2010年6月29日掲載) |