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◎“生態文明”を創造して 世界最古の物語『ギルガメシュ叙事詩』は、非常に興味深い内容を含んでいる。紀元前2600年ごろに実在したとされるシュメールの王ギルガメシュは、物語の中で森の神フンババを殺害してしまう。事実、ギルガメシュは自由勝手に任せて、レバノン杉の森をどんどん伐採した。そして畑を開墾し、肥大する都市の食糧をまかなった。森は、燃料を提供するのみならず、家や船の材料としても、人間社会に利用された。しかし、あまりにも大量の木々が切り払われた結果、その土地はやせ衰え、やがては砂漠化していった。シュメール王国の栄華も一時的なものにすぎず、しばらくして滅亡した。 また、かつて「すべての道はローマに通ず」と言われ、一時代の繁栄を誇ったローマ帝国が滅んだ理由は何か。諸説あるものの、権力者の腐敗堕落や性倫理の崩壊および奴隷制による人間性の頽廃(たいはい)のほか、次の点も指摘されている。(1)ローマは森林が環境資源として果たす役割に無知であった。(2)農耕で表土を流失し、農地の土壌がやせていった。(3)ローマは森林を伐採し、利益は多いが表土流失の多い牧草地に変えた。(4)穀物を植民地からの収奪に全面的に依存していた。そして、緑豊かで環境的に恵まれていた多くの周辺地域が荒廃地へと変わっていった。 つまり、歴史が物語るところでは、人間は森林を伐採し農作物を収奪し、それら自然からの恵みをもとに、人間社会や文明を発展させていった。しかし、文明を支えていた生態環境を消失させてしまった結果、やがてその文明を衰退させてしまうといった失敗の歴史を繰り返してきた。さらに、地域間の紛争や人々の戦争といったものが、資源の大量消費と略奪により、環境の破壊に拍車をかけることになったと考えられる。 「文明の前に森林があり、文明の後に砂漠が残る」。これは、フランソワ=ルネ・ド・シャトーブリアンの的を射た言葉である。歴史の教訓として、太平洋に浮かぶ孤島であるイースター島の文明崩壊の例がよく挙げられる。モアイ像の建造・運搬により、森林破壊から土地劣化へ、そして食料不足から最後は食人へという結末は、まさに悲劇そのものである。これは、小さな島で生じた事件だが、今やグローバルな時代であり、環境の危機は地球的な規模で生じている。 21世紀は、エコロジーをベースとした森林文化およびエコ・カルチャー、そして生態文明の創造が求められている。自然の法則や生態系の仕組みを正しく理解した上で、人間と自然の共生型文明が重要である。「森林文化都市」や「環境都市」、そして群馬県の各市町村の憲章など、それらが実現できれば、世界的に先駆的なモデル事業となる可能性が高いと言える。 (上毛新聞 2010年6月5日掲載) |