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県建設業協会会長  青柳 剛(沼田市西倉内町) 



【略歴】早稲田大大学院修了。前橋工業短大専任講師などを経て1981年に沼田土建入社。94年から同社社長。昨年5月、県建設業協会会長に。著書に「銀色万年筆」など。


建設業の技術情報



◎共有化し生産性向上を




 全国紙の経済担当の記者と話をしていたら、「その話は面白い。建設業特有のものですね」と指摘され、早速「不足する技術者同士の情報の共有」という記事になっていた。

 言われてみるまで気づかなかったが、確かに建設業の技術者、特に土木の技術者同士の技術情報の交換は数少ない。同じ会社に工事を依頼されても、その会社の技術者次第でつくるプロセスがそれぞれ異なっているのである。この辺が一品一品現地生産である建設業特有の構造的な問題点である。もう少し言えば、技術は技術者に蓄積され、組織としての企業に積み上げられることのない産業であるということである。

 具体的に言えば昨年、河川工事を並行していくつか担当したが、つくり方が技術者によって違っていた。工事を担当する技術者のことを現場代理人というが、現場代理人の権限は経営者の代理であり、すべての責任を負い、権限は大きい。発注者から与えられた仕様書、図面通りに仕上げていくことは同じだが、現場代理人が過去の経験と工夫で積み上げてきた書類はそれぞれ異なる。参考になるつくり方はどんどんまねをすればいいと指摘しても、なかなかそうはならない。定期的な会議を指示しても、つくり方の中身を議論することもなく、いつの間にか会議そのものもなくなってしまう。与えられた責任の重さゆえ、ついてきた権限と一緒になって現場代理人は一人歩きしてしまうのである。

 考えてみれば、日本の技術伝承そのものが、他人に技術を教え、共有化するということに重点が置かれてこなかった。「技術は盗んで覚えるもの」という文化が今でもしっかりと根付いていると思えば、かなりの部分を理解することができる。例えば木造建築。今までも体系立てて習得することができなかったが、今後も実際に見たり、触ったり、加工したりする経験を積み上げて行くことでしか木造技術の習得はあり得ない。長い間培われてきた、他人には教えないのが当たり前の文化が底流に流れている。

 現場代理人同士が技術情報の共有をしない体質は、組織としての技術力を ぜいじゃく脆弱なものにする。いかに技術力の底上げと技術を企業に蓄積させようと思っても、個人に蓄積されただけで終わってしまう。育ててきた優秀な技術者が抜け、技術力そのものが失われていった例は数多い。こういったことを考えながら、昨年の夏から全国建設産業団体連合会と群馬県建設業協会そして群馬県などと、全国に先駆けて始めた「地域人材を活用した生産性向上協議会」が、現場の工程表を手がかりに、情報の共有、ひいては生産性の向上、そして建設業の近代化へと向かう試みのひとつとして動きだしたのである。







(上毛新聞 2010年5月28日掲載)