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群馬大大学院工学研究科教授  宝田 恭之(桐生市菱町) 



【略歴】群馬大大学院修了。東北大の研究所などを経て群馬大工学部教授に。同大工学部長を2005年から、同大大学院工学研究科長を07年から09年3月まで務めた。


感性を育むために



◎自然界に浸り心豊かに




 この季節になるとそわそわして落ち着かない。原因は渓流釣りである。早春には残雪が河原に輝き、初夏には新緑がまぶしい。すぐ耳元でウグイスがさえずり、ハッとさせられることも多い。透き通った流れの中から釣り上げたヤマメは、たとえようもなく美しい。すべてを忘れさせる時間と空間である。

 渓流釣りは群大に赴任してからなので20年くらいになる。ここ数年は日曜の朝3時間程度で10尾くらいを釣り上げるようになった。38センチのイワナが最大である。腕が上がったというよりは自分流の釣り方が見えてきたように思う。

 もう6年ほど前のことであるが、桐生から沼田に抜ける途中の根利川に出かけた。早朝、薄暗い森を突っ切っていると、前方で“ドタッ”という物音がした。特に気にせずに進み、倒木を乗り越えていると、突然前方に黒い人影を感じた。大変なことになった。人ではなかった。クマであった。この瞬間、以前読んだ本を思い出した。この状況では『覚悟を決めて戦え』と書いてあった。ウオーッという声と共に突進してきた。来るなら来いである。怖さは全くなかった。身構えていると、クマは突然近くの木に登り、木に抱きついたままこちらを見ている。私は“勝ったな”と思った。

 21世紀のわが国では創造的な科学技術開発が重要となる。世界中で誰もやったことがなく、誰もできなかったことを追求するわけであるので、こんな愉快なことはない。ただ、どうやってそんなアイデアを出したらよいのであろうか。豊かで楽しい未来社会のビジョンを出すことが早急の課題である。ただ、豊かさとは一体何か? 楽しさとは一体何なのか? 潤いのある付加価値の高い商品開発が求められている。ただ、価値とは一体何なのか? これらの答えの本質的な基盤となっているのは感性であると思う。夢多き未来社会を作るためには豊かな感性が必要である。

 感性を育(はぐく)むためには自然環境と社会環境が重要であると思う。群馬県は両方とも多くの財産を抱えている。豊かな感性を育むためには、まずはどっぷり自然界に浸ることが最も効果的と思う。谷川岳を眺め、尾瀬の木道を歩き、温泉で風呂につかれば、自然に心が豊かになる。そして絹産業で一時代を築いた開拓精神は、その歴史、伝統とともに今に受け継がれている。

 次世代を担う人材の育成は群馬からと思う。東京のようなコンクリートと鉄骨の人工物の中では到底感性を育むようなことはできない。群馬の環境は最適である。子供を自然の中で遊ばせよう。群馬の自然環境を活用した育児や教育も考えたい。未来のためにも感性豊かな子供を育てたい。







(上毛新聞 2010年5月12日掲載)