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◎あるもの探しをしよう 群馬県に赴任して間もなく2年を迎える。この地に縁を得た幸せを思う。単身赴任であるが、家族も当地が大好きだ。幸い知己を得て、しばしばやって来る。 ところで最近、リクルート社が地元に対する愛着度を調査した。群馬県に愛着を持つ県民は3割に止まった(全国第30位)。 この理由について、当県は首都圏に近いために、東京と比べる癖がついているのではないか、と推察している。そう言えば、同じく北関東の栃木県、茨城県の「ご当地愛」も当県並みである。 確かに、地方経済は疲弊している。1人当たり県民所得の多寡がその格差を端的に示す。当県は東京都の6割に止まっている。しかも、東京都との格差は拡大傾向をたどっている。 しかし、格差を測る物差しは多様だ。用心深く使うべき言葉である。例えば地価を考えてみよう。2010年地価公示によれば、前橋市の住宅地平均価格は全国第33位。確かに低い。そのお陰で、前橋市の「住宅・土地のための負債」は都道府県庁所在市の中で全国第37位と低い。この結果、貯蓄から負債を引いた純資産残高は同第7位である。しかも、当県の持ち家の一住宅当たり延べ面積は、1都3県の1・3倍と広い。 物価も安い。1世帯1人当たりの食料支出額をみると、前橋市は1都3県の都県庁所在市の8割強だ。 何よりも生活の質が豊かである。通勤は「地獄」と無縁だ。私は東京の真ん中で育ったが、人込みは苦手だ。朝夕の通勤中、不機嫌が伝染しているように感じていた。しかも、通勤時間は短い。1都3県の半分だ。 他方、当県は、名湯をはじめ、豊かな自然に恵まれている。昨夏、初めて尾瀬を歩いた時の感動を忘れることはできない。また文化を育(はぐく)む機会も多い。群馬交響楽団は当県の宝である。時々、演奏会に出掛ける。最近では、中村紘子氏を迎えた特別演奏会を堪能した。しかも、東京に比べると格安である。美術館巡りも楽しい。これまでに富弘美術館、大川美術館、天一美術館、県立近代美術館、福沢一郎記念美術館などを訪ねた。好きな作品と対話する至福の時を過ごした。 もちろん、東京にもそれなりの魅力はある。例えば、絵画鑑賞や観劇の機会は多い。もっとも、当県は東京に近い。当県にない物は足を延ばしてつまみ食いすれば良い。それで十分だ。この地の利も当県の魅力だ。 私が大好きな金子みすゞの詩「私と小鳥と鈴と」の一節に、「みんなちがって、みんないい」という言葉がある。当県には人間らしい営みを可能とする環境がある。東京と比べた「無いものねだり」ではなく、「あるもの探し」をしよう。幸せは自分の心が決めるものなのだから。 (上毛新聞 2010年5月3日掲載) |