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石北医院小児科医師  石北 隆(渋川市渋川) 



【略歴】前橋高、東邦大医学部卒。医学博士。東邦大学医学部客員講師、日本小児科学会認定専門医、日本アレルギー学会認定専門医、日本小児科医会子どもの心相談医。



子どもの社会性を育む



◎必要なのは家族の支え



 最近、個人のコミュニケーション能力がしばしば話題となります。日本経団連の調査によれば、企業の新卒者採用に際しての選考要素は7年連続コミュニケーション能力が1位です。日本人の奥ゆかしさ故か、人との距離感を保つ方が心地よいと感じる人も多いとは思います。しかし、ブログやツイッターに自分の思いを記せても、家族や人に話すことができない若者が増加していることも事実でしょう。

 小児科医として3歳児の健康診断でとても気になることがあります。3歳は子どもが社会的スキルを身につける大事な年齢です。健診の場で子どもたちは保健師や医師から「お名前は?」と必ず尋ねられます。一昔前まではほとんどの子が元気に名前を教えてくれました。近ごろは、泣きだしたり、親の後ろに隠れて答えてくれない子が多くみられます。兄弟、家族が少ない、知らない人と口をきくな、と日ごろから教えざるを得ないなどの事情もあるでしょうが、それだけではないようです。

 そろそろ新入園、新入学の子どもたちも新しい環境に慣れてくるころです。毎年、この時期は集団生活に適応できず小児科を受診する子が増えます。小さな子では親との「分離不安」、思春期前後では「起立性調節障害」といわれる自律神経機能の調節障害、生活習慣の変化や対人関係のストレスによるものなど、原因もさまざまです。これらの子どもたちの中には軽度の発達障害のために、友人ができない、学習についていけないなどクラスになじめない子もいます。厚生労働省の数年前の研究報告では、ある二つの県で行われた5歳児健診で約9%の子どもが発達障害の疑いあり、と診断されました。このうち半数以上は3歳児健診で何ら発達の問題を指摘されていませんでした。これは教育や医療、福祉にかかわる者にとっては驚くべきことです。現在、5歳児健診を行う自治体はごくわずかです。軽度の発達障害を早期に発見し対応するためには各自治体の5歳児健診の導入と、相談や療育体制の充実が望まれます。

 価値観や道徳観が世代間、個人間で著しく異なる現代では家庭の子育ても一様ではありません。子どもたちが家庭で身につけてきたことが社会で通用しないこともあります。自分の理解者である家族の元を離れ、新しい集団の中に入っていくことは子どもたちにとって大きな試練です。保護者の方は、お子さんを家族の代表として保育園や幼稚園、学校へ送り出すという意識を常に持っていただきたいと思います。帰宅の際は笑顔で迎え、食事時はテレビを消し、お子さんの話す1日の出来事に耳を傾けてあげて下さい。






(上毛新聞 2010年5月1日掲載)