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数学・科学研究家  鈴木 数成(前橋市総社町) 



【略歴】群群馬大大学院修了。群馬大、明和短大などで非常勤講師を務め、科学教室や野外活動を通しての人間育成にも力を入れる。ボーイスカウト前橋第3団所属。


不思議な出来事



◎確かめることが大切



 地球を北半球と南半球とに分ける線を「赤道」という。赤い道と書くが、私が見た赤道は白い線だった。

 ケニアを訪れたときのこと。ナイロビで知り合ったガイドとケニア山へ向かう途中、寄らせたいところがあると言われた。そこは「ナニュキ」という街。街の一部が赤道上にある。街には「EQUATOR(赤道)」と書かれた黄色い看板があり、地面にはここだと言わんばかりに白線が引いてあった。私は白線をまたぎながら、「北半球と南半球の両方をまたにかけている」と感動した。

 その時であった。「赤道到達証明書はいらないか」と私を呼ぶ声がした。赤道を商売にしている人に思わず笑って断ると「では実験を見ないか」と続けた。

 実験という言葉につられて移動した先には、漏斗(じょうご)と水の入ったバケツがあった。それを見せながら説明が始まった。「ここでは地球の自転の影響を見ることができる」と。漏斗とバケツはその実験道具であった。

 彼は続けた。漏斗の下を指で押さえて水を溜(た)める。その水の上にマッチ棒を浮かべ、押さえていた指を離す。すると地球の自転の影響を受けて一定方向に渦を作りながら、漏斗の水は落ちていく。その浮かんでいる棒の回転は北半球と南半球とで異なるというのである。

 この実験は「コリオリの力」という現象を利用したものであることはすぐに分かった。台風が渦を巻く原因はこれによるものだ。しかし、小規模かつ短時間の運動に対してはその影響を及ぼすに至らないと学んでいただけに気になった。

 ここはナニュキ。赤道で北半球と南半球に分けられる街である。本当に彼の言う通りになるのか興味を持った。私は迷わずお願いした。

 赤道から北側に十数メートル移動すると反時計回りに、南側に十数メートル移動すると時計回りにその棒は回転をした。素直に受け入れられない私は彼から奪い取るように道具を借りて実験をするが、結果は常に同じだった。

 「ところで…」。私は彼に問いかけた。赤道上ではどうなるの、と。彼が見せてくれたのは棒が回転しない、すなわち水が渦を作らない、という結果だった。

 赤道を挟んでたった十数メートルのこの出来事。私の見たものは何だったのだろう。私の学んだ知識が間違っているのか? いまだ結論がでていない。

 知ることの喜びと体験することの驚き。学問とはこれの繰り返しである。この繰り返しの中には答えの見つからないこともある。だからと 諦(あきら)めてはいけない。求め続けることでいつかは答えが見つかるかもしれない。科学はこうして進歩してきた。私たちの成長も同じではないだろうか。学びの連鎖から生まれる疑問には素晴らしい発見が待っているに違いない。







(上毛新聞 2010年4月21日掲載)