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下仁田自然学校運営委員  小林 忠夫(埼玉県坂戸市) 



【略歴】長野県出身。東京教育大卒。新潟県内の中学校、高校で教諭を務めた後、地学団体研究会事務局に勤務。下仁田自然学校には創立準備当時から携わっている。


下仁田自然学校から(3)



◎産廃問題で地質見直す



 前回(2月22日付)この欄で紹介した、下仁田自然学校発行の小冊子「かぶら川の石図鑑―川原の石の生いたちをたずねて」に続いて、もう一冊の小冊子を取り上げます。

 下仁田町の産廃問題で重要な役割を果たした「下仁田町の産廃問題を考える本―計画地は処分場の『適地』か―」にまつわる話題です。

 下仁田自然学校が創立5周年を迎えた2004年、町に産業廃棄物最終処分場ができるという話が持ち上がりました。ようやく町のみなさんにも自然学校が認知され始めたころで、「処分場予定地の地盤は、地質学的に安全な場所かどうか教えてほしい」という相談が持ち込まれたのです。残念ながら、自然学校にはまだ、産廃予定地とされる地域の地質資料が整備されていなかったので、現地調査に入ることにしました。

 せっかくの機会なので、地質だけではなく、予定地全域の環境地図作りを考えました。自然学校運営委員だけの調査ではなく、町民や自然学校後援会員にも呼びかけ、みんなで進めることにしたのです。

 自然学校だより「くりっぺ」で参加を呼びかけたところ、町の有志や中学生、後援会の専門家など、約100名が参加を申し出て、集団研究が始まりました。

 調査は、約6カ月間に、土・日を中心に14日間実施され、冊子を完成させました。B5判、16ページ、手作りの小冊子ですが、地形、地質、沢水、植物、歴史の道など、みんなで歩いて確かめた貴重な結果が記録されています。そして、この冊子の記録は、計画地は処分場の適地ではない、という結論をわたしたちに教えてくれたのです。冊子は下仁田自然学校(FAX0274・67・5315)で頒布します(送料込み450円)。

 この冊子を使って、各地域で勉強会が計画され、自然学校の運営委員はそれぞれの地域に出かけ、みなさんに現地調査の結果を紹介してまわりました。

 産廃の本質を理解した、町民こぞっての反対運動によって、産廃問題は、07年、町が予定地の土地を買い取ることで、解決することになったのです。

 現地調査という実践を通して、参加したみなさんは、下仁田町が地質学的にいかにすばらしい地域かを、身をもって体験することになりました。

 そして、産廃という負の遺産の引き受け阻止、という運動が、今度は、貴重な地質遺産の保護と活用、という新たな運動へと展開することになったのです。

 10年度から、「葱(ねぎ)と蒟蒻(こんにゃく)ジオパーク」の標語のもとに、下仁田町の地質遺産をジオパーク(地形・地質の自然公園)に、という運動が本格的に始まりました。








(上毛新聞 2010年4月19日掲載)